具体的にどれくらい投与量が増えたのかよく分からない。
真理亜は唯の顔を見る。
先程までと特に変わりなく、唯は寝息を立てて眠っていた。
どのくらいで唯の身体に変化が現れるだろう。
(怖いっ……)
やってしまった。
こんなことはダメだ。やはり元に戻そう。
気が動転し、足がパイプ椅子に当たって派手な音を立てる。
「ん……お姉ちゃん……?」
「ゆ、唯っ……」
唯が目を覚ましてしまった。ポンプを触ることが出来ない。
「何でも……何でもないの。良いからもう少し寝てなさいっ……」
「え……なに、そんな怖い顔して……」
唯はふにゃりと笑って、欠伸をしながら身体を起こした。
「っ……」
とてもこのままこの部屋にいる気にはなれなかった。
「私、ちょっと買い忘れたものがあって……」
真理亜は震える手で唯の頬を撫でる。
「ごめんね、もう一回コンビニ、行ってくるからっ……」
縺れそうになる足に力を込め、真理亜は唯に背を向けた。
「あっ、お姉ちゃん」
唯に呼び止められる。
振り向くと、唯は幸せそうな恥ずかしそうな顔で笑っていた。
「これ、恭平の、買ってきてくれてありがとう」
「……ええ」
真理亜は曖昧に笑って、病室を後にした。
エレベーターに乗り込むと、真理亜は力なく壁に凭れる。
どうしよう。
いつ部屋に戻ろう。
どうやって誤魔化せばいい?
そんなことばかりが頭を巡り、思考がまとまらない。
動悸がして、呼吸が荒くなる。
「落ち着け……ちょっとくらいなんて事ないわ……」
深呼吸をする。やがてエレベーターが下に着き扉が開く。
「っと……清瀬?」
「っ……! 桜井、君?」
落ち着きかけていた心臓が再び跳ね上がった。
「私、買い忘れたものがあって、行ってくるわね」
まともに顔も見れなかった。
早口にそれだけ告げて、真理亜はなるべく大股でエレベーターから遠ざかる。
それからすぐだった。恭平から、唯が急変したと着信があった。
「唯っ……!!」
病室に飛び込もうとするも、外で待つよう言われ入ることは叶わなかった。
中には既に何人もの看護師と主治医が集まっていて、唯の上に馬乗りになったスタッフがベッドが揺れるほど強く胸部を押し込んでいた。
病室の外では、虚ろな表情の恭平が廊下の壁に凭れて佇んでいた。
「さ、桜井君……唯はっ……?」
真理亜は恭平に訊ねる。しかし恭平も、状況は理解出来ていなかった。
「分からない……俺が来た時にはもう意識がなくて、ナースコールを押したんだ……点滴の流量がどうのって看護師達が言っていたが……」
そんなつもりではなかった。
真理亜は心の中で必死に言い訳をした。
「そんな、つもりじゃ……」
「……清瀬?」
言い訳が、思わず口をついた。自分の中だけに押し止めておくには、あまりにも罪が重過ぎた。背負った十字架に押し潰されるかのように、真理亜は崩れ落ちる。
「そんな、私、殺すつもりなんかじゃっ……」
そのまま意識は戻らず、唯はその日の夜に息を引き取った。恭平の誕生日が、唯の命日になった。
真理亜は唯の顔を見る。
先程までと特に変わりなく、唯は寝息を立てて眠っていた。
どのくらいで唯の身体に変化が現れるだろう。
(怖いっ……)
やってしまった。
こんなことはダメだ。やはり元に戻そう。
気が動転し、足がパイプ椅子に当たって派手な音を立てる。
「ん……お姉ちゃん……?」
「ゆ、唯っ……」
唯が目を覚ましてしまった。ポンプを触ることが出来ない。
「何でも……何でもないの。良いからもう少し寝てなさいっ……」
「え……なに、そんな怖い顔して……」
唯はふにゃりと笑って、欠伸をしながら身体を起こした。
「っ……」
とてもこのままこの部屋にいる気にはなれなかった。
「私、ちょっと買い忘れたものがあって……」
真理亜は震える手で唯の頬を撫でる。
「ごめんね、もう一回コンビニ、行ってくるからっ……」
縺れそうになる足に力を込め、真理亜は唯に背を向けた。
「あっ、お姉ちゃん」
唯に呼び止められる。
振り向くと、唯は幸せそうな恥ずかしそうな顔で笑っていた。
「これ、恭平の、買ってきてくれてありがとう」
「……ええ」
真理亜は曖昧に笑って、病室を後にした。
エレベーターに乗り込むと、真理亜は力なく壁に凭れる。
どうしよう。
いつ部屋に戻ろう。
どうやって誤魔化せばいい?
そんなことばかりが頭を巡り、思考がまとまらない。
動悸がして、呼吸が荒くなる。
「落ち着け……ちょっとくらいなんて事ないわ……」
深呼吸をする。やがてエレベーターが下に着き扉が開く。
「っと……清瀬?」
「っ……! 桜井、君?」
落ち着きかけていた心臓が再び跳ね上がった。
「私、買い忘れたものがあって、行ってくるわね」
まともに顔も見れなかった。
早口にそれだけ告げて、真理亜はなるべく大股でエレベーターから遠ざかる。
それからすぐだった。恭平から、唯が急変したと着信があった。
「唯っ……!!」
病室に飛び込もうとするも、外で待つよう言われ入ることは叶わなかった。
中には既に何人もの看護師と主治医が集まっていて、唯の上に馬乗りになったスタッフがベッドが揺れるほど強く胸部を押し込んでいた。
病室の外では、虚ろな表情の恭平が廊下の壁に凭れて佇んでいた。
「さ、桜井君……唯はっ……?」
真理亜は恭平に訊ねる。しかし恭平も、状況は理解出来ていなかった。
「分からない……俺が来た時にはもう意識がなくて、ナースコールを押したんだ……点滴の流量がどうのって看護師達が言っていたが……」
そんなつもりではなかった。
真理亜は心の中で必死に言い訳をした。
「そんな、つもりじゃ……」
「……清瀬?」
言い訳が、思わず口をついた。自分の中だけに押し止めておくには、あまりにも罪が重過ぎた。背負った十字架に押し潰されるかのように、真理亜は崩れ落ちる。
「そんな、私、殺すつもりなんかじゃっ……」
そのまま意識は戻らず、唯はその日の夜に息を引き取った。恭平の誕生日が、唯の命日になった。