「ねぇ恭平! 雨宮さんはっ!? 一緒にいた女の子は!? まだ見つからないの……!?」
避難先の外来ロビーで泣きじゃくる舞を宥めながら、恭平もまた心中穏やかではいられなかった。
何度も何度も雛子のPHSにコールするが、呼出音が鳴るばかりで応答はない。
そればかりか、雛子と一緒にいた幸子の姿も見えない。
どこの病棟もスタッフは最優先で患者のケア、そして面会者へのフォローで皆手一杯だ。一年目と思しき若いスタッフを中心に雛子達を見ていないか尋ねるも、誰からも有力な情報は得られなかった。
「クソッ……あいつら一体どこにっ……」
8A病棟にはもう一つ懸念がある。事故の重要参考人として隔離入院となっていた河西清乃の姿も見えないのだ。無差別に人を襲った人物の特徴から、犯人は河西である可能性が高い。
やっと到着した警察の特殊部隊は、犯人確保に向け病院の警備室と連携し、院内の地図を手に部隊配置について調整を行っている。
院内にいたスタッフと患者達はオペに関わる数名以外、全員外来ロビーから出ることを禁じられており、恭平は雛子達を探しに行くこともできず苛立ちを募らせていた。
「恭平っ!!」
突如、幼く舌っ足らずな声で名前を呼ばれた。
「さっちゃんっ……!」
振り返った恭平の胸に勢い良く飛び込んできたのは、行方不明になっていたうちの一人、池野幸子だった。
「良かった、無事だったんだなっ……」
抱き締めて頭を撫でてやると、その身体が僅かに震えているのが分かる。
「桜井君、幸子が迷惑かけたね」
幸子の後ろからやって来た池野医師が頭を下げる。
「いえ、さっちゃんが無事で良かったです……」
恭平は辺りを見回す。幸子と一緒にいたはずの雛子の姿はない。
(あいつは……一緒じゃないのか……?)
恭平の心中を察したかのように、幸子が目に涙を溜めながら顔を上げた。その表情に、恭平の不安感も一層高まる。
「雛子は……雛子は、サチを助けようとして、それで……ごめん恭平っ、全部サチのせいだっ……」
幸子は堪えきれず、大粒の涙がいくつも頬を伝う。
「落ち着いてさっちゃん……。雨宮は、どこにいるの?」
その涙の理由を考えると絶望しそうになるも、恭平は努めて平静を装ってそう尋ねた。幸子はしゃくり上げてそれ以上言葉にならず、代わりに父親である池野が答える。
「……避難指示が出てすぐ、幸子が医局に飛び込んできたんだ」
8Aに誰もいないことに気付いた後、幸子は次に父親がいるであろう医局へと向かっていた。幸子が院内の構造を熟知していたからこそ可能だったのだろう。
池野もまた、申し訳なさそうに俯く。
「事件があった時、二人は幸子の我儘でB階段に居たらしい。そこで刃物を持った犯人と鉢合わせして、雨宮さんは……」
「っ……!」
一瞬、目の前が真っ暗になる。しかし、肩を震わせ泣いている小さな子どもを責める気には到底なれなかった。
(ちくしょう……あの時やっぱり俺が検査に行っていればっ……)
大きな後悔が恭平を襲う。
「幸子もどうなったかまでは分からないそうなんだ……僕が探しに行こうとしたんだけど、代わりに鷹峯君が向かってくれてね。僕には、幸子に着いててやれって言って……急いで走っていったんだ」
「あいつが……?」
その名前に、恭平は驚いて池野を見つめた。
「ああ……鷹峯君が雨宮さんを見つけてくれれば良いんだけど……」
そう言って、池野が白いパーテーションで囲われた一角に目を向ける。そこでは今回怪我をした者達が集められ、外科の医師チームによって治療が施されていた。
恭平も釣られてそちらへ目を向ける。その時だった。
避難先の外来ロビーで泣きじゃくる舞を宥めながら、恭平もまた心中穏やかではいられなかった。
何度も何度も雛子のPHSにコールするが、呼出音が鳴るばかりで応答はない。
そればかりか、雛子と一緒にいた幸子の姿も見えない。
どこの病棟もスタッフは最優先で患者のケア、そして面会者へのフォローで皆手一杯だ。一年目と思しき若いスタッフを中心に雛子達を見ていないか尋ねるも、誰からも有力な情報は得られなかった。
「クソッ……あいつら一体どこにっ……」
8A病棟にはもう一つ懸念がある。事故の重要参考人として隔離入院となっていた河西清乃の姿も見えないのだ。無差別に人を襲った人物の特徴から、犯人は河西である可能性が高い。
やっと到着した警察の特殊部隊は、犯人確保に向け病院の警備室と連携し、院内の地図を手に部隊配置について調整を行っている。
院内にいたスタッフと患者達はオペに関わる数名以外、全員外来ロビーから出ることを禁じられており、恭平は雛子達を探しに行くこともできず苛立ちを募らせていた。
「恭平っ!!」
突如、幼く舌っ足らずな声で名前を呼ばれた。
「さっちゃんっ……!」
振り返った恭平の胸に勢い良く飛び込んできたのは、行方不明になっていたうちの一人、池野幸子だった。
「良かった、無事だったんだなっ……」
抱き締めて頭を撫でてやると、その身体が僅かに震えているのが分かる。
「桜井君、幸子が迷惑かけたね」
幸子の後ろからやって来た池野医師が頭を下げる。
「いえ、さっちゃんが無事で良かったです……」
恭平は辺りを見回す。幸子と一緒にいたはずの雛子の姿はない。
(あいつは……一緒じゃないのか……?)
恭平の心中を察したかのように、幸子が目に涙を溜めながら顔を上げた。その表情に、恭平の不安感も一層高まる。
「雛子は……雛子は、サチを助けようとして、それで……ごめん恭平っ、全部サチのせいだっ……」
幸子は堪えきれず、大粒の涙がいくつも頬を伝う。
「落ち着いてさっちゃん……。雨宮は、どこにいるの?」
その涙の理由を考えると絶望しそうになるも、恭平は努めて平静を装ってそう尋ねた。幸子はしゃくり上げてそれ以上言葉にならず、代わりに父親である池野が答える。
「……避難指示が出てすぐ、幸子が医局に飛び込んできたんだ」
8Aに誰もいないことに気付いた後、幸子は次に父親がいるであろう医局へと向かっていた。幸子が院内の構造を熟知していたからこそ可能だったのだろう。
池野もまた、申し訳なさそうに俯く。
「事件があった時、二人は幸子の我儘でB階段に居たらしい。そこで刃物を持った犯人と鉢合わせして、雨宮さんは……」
「っ……!」
一瞬、目の前が真っ暗になる。しかし、肩を震わせ泣いている小さな子どもを責める気には到底なれなかった。
(ちくしょう……あの時やっぱり俺が検査に行っていればっ……)
大きな後悔が恭平を襲う。
「幸子もどうなったかまでは分からないそうなんだ……僕が探しに行こうとしたんだけど、代わりに鷹峯君が向かってくれてね。僕には、幸子に着いててやれって言って……急いで走っていったんだ」
「あいつが……?」
その名前に、恭平は驚いて池野を見つめた。
「ああ……鷹峯君が雨宮さんを見つけてくれれば良いんだけど……」
そう言って、池野が白いパーテーションで囲われた一角に目を向ける。そこでは今回怪我をした者達が集められ、外科の医師チームによって治療が施されていた。
恭平も釣られてそちらへ目を向ける。その時だった。