あれは、中学一年生の頃だ。


忙しい両親が珍しく一緒に休みを取り、祖父母も交え家族で出掛けることになった。

『おばあちゃん達も一緒に行けるの!? 嬉しい!!』

祖母はシミ一つない白肌に灰色の瞳、豊かな白髪で、幼い雛子から見ても美しい女性だった。そしていつでも穏やかな笑みを浮かべて雛子を愛してくれた。

雛子はそんな祖母のことが誰よりも大好きで、祖母と一緒に出掛けられることが何より嬉しかったのを覚えている。


しかしその旅行が大好きな祖母との、家族との最期の時間となった。



『ぶつかるっ────……!!!!』


そう叫んだのは、母だっただろうか。

聞こえた瞬間、家族を乗せた乗用車に衝撃が加わった。後部座席の真ん中でシートベルトを締めていなかった雛子だけが座席から飛び出しフロントガラスを突き破り、気付いた時には車外へ投げ出されていた。


アスファルトに身体が跳ねた時は痛みすらなく、ボワンとまるでトランポリンのようにバウンドしたのをよく覚えている。


自分の口からゴボゴボと吐き出された真っ赤な血液には驚いたが、それがどこか他人事のようにも思えた。


痛みはないが動くことができず、何とか視線だけを彷徨わせる。


『あ……』



天地のひっくり返った車内で、運転席の父が、助手席の母が、後部座席にいた祖父母がぐったりとしているのが目に入った。




誰か、助けて……。



叫びたくても声が出ない。


次第に腹部は焼け付くように熱くなり、呼吸すらまともにできなくなる。





『はぁっ……はっ……』




あっという間に周りには人集りができ、中には父の車や雛子に駆け寄って救助を試みようとする者もいた。あちこちから悲鳴が聞こえ騒々しい。




『キミっ! 大丈夫かっ!?』




何人かの大人によって、雛子は路肩へと運ばれる。




『うわっ……こりゃ酷いな……』


『生きてんのか……?』




生きてるよ、失礼な。そんなことより皆を助けてよ!!




そう言いたいのに、耳以外の機能がまるで働かない。


やがてどんどんと睡魔に襲われ、雛子の意識は暗闇の中へと引きずられていく。





『まずいっ! 皆離れろっ!!!!』





意識が落ちる瞬間に雛子が見たものは、まだ皆が乗ったままの車が、物凄い爆発音と共に火達磨になった姿だった。