「はぁ〜退屈だわ……あ、そこもうちょっと強く」

篠原舞は寝転がったまま、暇そうに一つ欠伸をする。雛子は舞の白いふくらはぎをマッサージしながら、青い顔で時計を見遣る。

「もう……もう勘弁して下さいよぉ〜! 今日は重症部屋の受け持ちとオペ出しに検査出し、やること盛りだくさんで忙しいんです!!」

それでも決して手を止めず言われるがままマッサージをする雛子。頭の中では必死にこの後の予定をリスケしていく。

「だってぇ〜まだ貧血があるからってシャワーも浴びられなければコンビニに行くこともできないのよぉ〜? つまんないじゃない、もう病棟に上がって結構経つのに〜」

舞は大袈裟に唇を尖らせながらそう宣う。

「だからって私にマッサージさせることないでしょう!? 私が手伝うのは身体拭きまでって言ったはずです!」

そう、確かに最初は着替えて身体を拭く手伝いをしていただけだったのだ。それがいつの間にか、エステティシャンのごとく全身のマッサージをさせられている。

一体何故こうなったのか、雛子は自分の間抜けさに泣きたくなった。

「こーやって雨宮さんを虐めるくらいしか楽しみがないのよ〜。今日はとっても忙しいんでしょ? ここで目一杯引き止めてあ・げ・る♡」

「うぅ……モンスターめ……」

正々堂々とイジメ宣言をされた。

それでも舞が自分を苗字で呼んでくれるようになったことが嬉しくて、つい言うことを聞いてしまう自分がいる。

恭平に飽きれられる前に、雛子は自分で自分に飽きれていた。

「何か冷たいものが食べたいわぁ〜。あとでコンビニでアイス買ってきてよ〜」

「はぁっ? 嫌ですよお金返してくれないでしょ〜?」

「当たり前じゃない、快気祝いと思いなさい」

「横暴なっ!!」

悪魔の笑みで今度はアイスを所望する舞。どれだけ女王様なんだと思いつつ、一体どんなアイスが好みなんだろうかと既に考え始めている自分に気付く。

「やばい。身も心も奴隷になるところだった……篠原さん、またあとで来ますから! 暫くはナースコール押しても私、来ませんからね!?」

舞に念を押し、雛子は部屋を後にする。既に昼食の時間が目前に迫っており、早く内服と点滴更新の準備をしなくてはならない。