The previous night of the world revolution6~T.D.~

「うふふ…。勝利の美酒は格別ですね…」

アイズの用意してくれた、高級なワインも然り。

そして何より。

「ルルシーの手料理!もう色んな意味で涎が止まりませんね!」 

「…お前な…」

あらルルシー。どうしたの、そんな呆れた顔して。

パーティなんだから、もっと楽しまなきゃ。

あっちでケーキを貪っている、アリューシャを見ると良い。

「うめぇ。ゴスロリ印のケーキうめぇ」

「アリューシャ、口の端にいっぱいクリームついてるよ」

「むぎゅ?」

「はい、ナプキンで拭いてあげようね〜」

と、いう仲良し親子のやり取りを見て。

「…お前らもだよ…」

ルルシーは、この呆れ顔。

まぁまぁ、この二人はいつも通りで良いじゃないか。

ようやく肩の荷が下りたらしいアイズは、朗らかな様子でアリューシャのお世話をしてあげている。

いやぁ平和な風景だ。

更に。

「シュノ、お前も少しはツッコミ、」

「る、ルレイアっ…。これ、私の手作りのフライドポテト…。良かったら食べて」

「はい、いただきます」

「お、美味しい…?」

ん?これは。

「これ、薄くカレー粉入ってます?」

「そうなの!分かる?」

「えぇ、ちょっとカレー風味で美味しいですよ。また腕を上げましたね、シュノさん」

「…!」

ぱぁぁ、と明るい笑顔になるシュノさん。

「うんっ…!」

これはもう、完全にパーティの虜ですね。

「…」

これには、ルルシーも黙り込むしかない。

すると。

「まぁまぁルルシー先輩、ここはルリシヤ・マジックを見て、元気を出してくれ」

「うわっ、びっくりした」

ルルシーの背後から、にゅるりとルリシヤが現れた。

彼がシルクハットを外すと、その中からふわっ、と香りを放つ大量の薔薇の花が。

わー、綺麗。

「うぉぉぉー!すげぇぇぇ!」

相変わらず、ルリシヤ・マジックに夢中のアリューシャである。

「ふふふ、こんなものじゃないぞ。半年近くに及ぶ潜入中、俺の磨き上げたマジックの腕前を見てくれ」

「お前…スパイやってる間に、そんなことしてたのか…?」

いやんルルシー、そんなマジレスしないで。

今は、ルリシヤの新作マジックを楽しみましょう?
と、そこに。

「遅れて済みません」

「お、ルーチェス、良いところに」

遅れ馳せながら、ルーチェスが合流してきた。

いらっしゃい。

「遅れるつもりはなかったんですが、久々の再会で、つい羽目を外してしまいまして…いやはや申し訳ない」

「いえ良いんですよ。気持ちはよく分かります。俺もルルシーと再会してすぐ、たっぷりルルシーの匂いを堪能しましたから」

「…この煩悩師弟…」

ルルシーが何か呟いてるが、

まぁ、聞こえなかったということで。

「遅れたお詫びと言っては何ですが、ミートパイとエッグタルト作ってきたので、良かったらどうぞ」

「うぉぉ!美味そう!」

早速食いつくアリューシャである。

さすが俺の弟子。多才で結構。

「うん、美味しい。ルーチェスこれ、美味しいよ」

ルーチェスのミートパイを一口食べて、アイズがそう言った。

「ありがとうございます、アイズ総長。…はい、ルルシーさんもどうぞ」

「…ルーチェス、お前、俺に近寄るな」

「!」

ルルシー、あなた何てことを。

それはあんまりというものだ。

「え?僕何かしました?何もしませんよ。男同士のあれこれに関する趣味はありますが、さすがに師匠の嫁に手を出す趣味は…」

「そういう意味じゃねぇ。近寄るな」

「…」

ルーチェスは、すすす、と数歩下がり。

「…ルレイア師匠。どうやら僕は、あなたの奥さんに嫌われてしまったようです」

「ちょっとルルシー。酷いですよ?いくら、ルーチェスが一足先に夫婦の営みを堪能してきて、羨ましいからってそんな…」

「別に羨ましくねぇし、お前と夫婦になった覚えもねぇ」

はい?

ちょっと今、何言ったのか聞こえませんでしたね。

「そうじゃなくて、フェロモンだ。ルーチェス、お前から今…ルレイア・フェロモンに似た、危ういフェロモンを感じる」

「え?」

俺とルーチェスは、互いに顔を見合わせた。
「…アイズ総長」

「僕、今ルレイア・フェロモンならぬ…ルーチェス・フェロモン出てます?」

「そうだね…。微弱ながら、それに似たものを感じるね」

「言われてみれば…。ルレイアほど強烈ではないけど…。妖しいものを感じるわ」

アイズとシュノさんが言った。

更に、ルリシヤが。

「何だ、気づいてなかったのか?俺はとっくに気づいていたぞ。仮面の勘でな」

ルリシヤの仮面の勘が言うなら、間違いはない。

「マジか!ルー公まで!?ちょっと試しに、」

「あ、アリューシャ駄目だよ。迂闊に近寄ったら、」

好奇心いっぱいでルーチェスに近寄ろうとするアリューシャを、アイズが止めようとしたが。

遅かった。

ルーチェスの真横にくっついたアリューシャは、

「NOぉぉぉぉぉぉっ!!」

ルーチェス・フェロモンの、尊い犠牲になった。

「目が、目がぁぁぁぁ」

「だから、迂闊に近寄ったら駄目だって言ったでしょ…。ルーチェスの師匠は、あのルレイアなんだよ?まだフェロモンレベルは弱いとはいえ、迂闊に近寄るとこうなるんだよ」

「うぅ…。ルレ公フェロモンに勝るとも劣らない、変化球食らった気分…」

アイズに、目をナプキンで拭いてもらっていた。

なんてことだ。

「『事後』フェロモンを出せるようになるとは…さすがルーチェス、俺の弟子に相応しい」

「ありがとうございます、ルレイア師匠…。あなたのご指導の賜物です」

と、互いに互いを認め合っている師弟を見て。

「…ろくな指導してねぇな、お前…」

ルルシーが何かを呟いていたが、これもまぁ、聞こえなかったということで。

「この調子でフェロモンレベルを上げ、最終的には、一発でアリューシャの目を潰せたら、免許皆伝ですね」

「努力します!」

「…アリューシャを巻き込んでやるなよ…」

またしてもルルシーが何かを呟いていたが…。

…聞こえなかったということで。

遂にルーチェスが『事後』フェロモンを出せるようになったのだから、これはめでたいことだ。
さて、ルーチェスも揃ったので。

「では、改めて俺の新作マジックをお披露目するとしようか」

「…いや、乾杯が先じゃね?」

と、いうルルシーのツッコミは無視され。

「まずはこのステッキ」

ルリシヤは、一見何の変哲もない、黒いステッキを取り出した。

まず、そのステッキを何処に隠していたのかという謎も、ある種のマジックだな。

そして、そのステッキをくるりと回し、ステッキの先端に指を突っ込むと。

そこから、大きな赤い布を引っ張り出した。

「おぉぉぉ!あれ仕込んでたの!?仕込んでたのか!?」

ミートパイにパクつきながら、興味津々のアリューシャ。

仕込んでたんでしょうねぇ。

「さぁ、よく見てくれ。何の変哲もない、ただの布だろう?」

ルリシヤは、赤い布を裏表にして、ただの布であることをアピール。

闘牛士が持ってるあれみたい。

「しかしこれに、ルリシヤ・マジックをかけると…」

ひらり、と赤い布を椅子の上に被せ、パチン、と指を鳴らし。

布をサッと取り除くと、その椅子の上には、

「ぬぉぉぉぉ!なんか出てきた!」

何もなかったはずの椅子に、ゴスロリドレスを着たクマのぬいぐるみが現れた。

これには、アリューシャも大興奮。

何処から出したんだろうなぁ。

そして、ぬいぐるみの着ている服に、素晴らしいセンスを感じる。

「さて、このぬいぐるみは、シュノ先輩にあげよう」

「あ、ありがとう」

ぬいぐるみを、シュノさんに渡してから。

「ではお次のマジックだ。使うのは、これ」

取り出したのは、豚の貯金箱。

「ちなみに、中身は空っぽだ。ルルシー先輩、確認してみてくれ」

「え、俺が?」

貯金箱を手渡されたルルシーは、疑わしそうに貯金箱を見つめた。

振ってみたり、穴を覗いたり。

しかし、やっぱり空っぽなものは空っぽ。

「…あぁ、空っぽだな」

確認終了。

「よし、ではここからが、ルリシヤ・マジックだ」

そう言って、ルリシヤはルルシーから返してもらった豚の貯金箱を、テーブルの上に置き。

パチン、と指を鳴らした。

「さぁ、これで完成だ」

「…何が?」

さっきの、ぬいぐるみのマジックが凄かっただけに。

貯金箱をテーブルに置いただけで、これが何のマジックなのかと、首を傾げる一同。

「なんも凄くねーじゃん」

と、つまらなさそうなアリューシャ。

「言ったな?アリューシャ先輩。その言葉、後悔することになるぞ」

「後悔も何も、たかだか空っぽの貯金箱に、驚くも糞もねーべさ」

「そうか。ならつまらないな。アリューシャ先輩、その貯金箱、俺に返してくれ」

「ふぇ?別にいーけど…」

アリューシャは、ルリシヤに返そうと、テーブルの上の豚の貯金箱を手に取っ…、

…た、はずだった。
ここで、ルリシヤ・マジック発動。

「!?何だ!?こいつ、動かねぇ!」

空っぽで軽いはずの貯金箱は、まるでテーブルに貼り付けられたかのように、びくとも動かない。

アリューシャが引っ張っても押しても、さっぱり動かない。

動かざること山の如し。

豚の癖に。

「何で!?何で!?何で動かないのこいつ!?」

「ふふふ…。これぞルリシヤ・マジック」

ルリシヤのドヤ顔が炸裂する。

「磁石か何かですかね?」

そう言って、首を傾げるルーチェス。

「おっと、ルーチェス後輩。マジックの種明かしを希望するとは無粋だな」

「あ、済みません」

「しかし、磁石ではないぞ。テーブルの下を確認してくれても良い」

ルリシヤがそう言うと、ルーチェスはテーブルの下を確認。

俺も覗いてみたけれど。

磁石らしきものは、何処にも見当たらない。

「成程、磁石ではないようですね」

「だろう?」

「分かった!アリューシャ分かったぞ」

なおも、豚の貯金箱を引き剥がそうと奮闘しながら。

アリューシャが叫んだ。

「何が?」

「瞬着だな!瞬着つけたんだろ、豚さんの足に!すげー強力な瞬着!」

成程、まぁ普通に考えたら、それを疑うよな。

しかし、そんな安直なマジックは、ルリシヤ・マジックとは呼ばない。

「ふふふ、残念だなアリューシャ先輩。それは不正解だ。何故なら…」

「ふぇ!?」

ルリシヤが、パチンと指を鳴らした瞬間。

さっきまで悪戦苦闘していたのは何だったのか、あっさりと豚の貯金箱はテーブルから離れた。

「うぉっとっとっと!」

「おっと、危ない」

よっぽど力を込めて引き剥がそうとしていたらしく。

いきなりテーブルから離れた貯金箱の反動で、バランスを崩して倒れかけたアリューシャを、咄嗟にアイズが支えた。

「!?…!?」

アリューシャ、びっくり。

豚さんの足には、瞬着をつけた跡は一切ついていない。

どころか。

「開けてみると良い、アリューシャ先輩」

「ふぇ!?でも、何も入ってないって…」

「本当にそうかな?」

「ん?アリューシャ、中覗いてご覧、何かあるよ」

「ほぇ!?」

ルリシヤとアイズに促され、豚の貯金箱を覗くと…。

「飴!飴めっちゃ入ってる!何で!?」

さっき空っぽだったはずの、貯金箱の中に。

ぎっしりと、色取り取りの飴玉が詰まっていた。

「凄い…!ルルシー、さっき本当に、中は空っぽだったのよね?」

興奮してルルシーに尋ねるシュノさん。

「あ、あぁ…。確かに空だったはずだ…いつの間に…」

本当、いつの間に仕込んだんでしょうね?

しかも、何でテーブルにくっついて離れなかったのか。

謎は深まるばかりである。
「そしてその飴玉は、アリューシャ先輩にあげよう…と、言いたいところだが」

「ふぇ?」

「さっき、つまらないと言われてしまったからな。つまらない飴玉を、アリューシャ先輩にあげる訳には…」

「すげーです!ルリシヤパイセンマジすげーっす!尊敬します!一生ついていきます!」

突然媚びを売り始めた。

飴玉欲しさに。

このマジックを見せられたら、そりゃ一生ついていきたくもなる。

「パイセンって…。先輩なのはお前だろ…」

ルルシー、マジレスは無粋だよ。

「では、次で最後のマジックだ」

「ふぉぉぉ!次は何!?何使うの?」

「何も使わないよ」

ほう?

その身体だけで、マジックを披露してみせると?

俺、またナイフとかぶっ刺したかったんだけどなぁ。

すると。

「…うっ」

ルリシヤが、いきなり喉元を押さえた。

「うぉっ!?ど、どうしたルレ公?」

「首が…首が、限界だ…!」

「ほぇ!?」

あ、これ定番の奴だ。

と、思った瞬間。

ルリシヤの首が外れて、すてん、と胸元まで落ちた。

このときの、アリューシャの顔。

まるで、時が止まったかのようだった。
おー。

定番の奴ですねこれ。面白、

「死んだぁぁぁぁ!!」

アリューシャ、絶叫。

「どうしよう!どうしようアイ公!ルレ公が!ルレ公が死んじまったよ!畜生馬鹿、こんなマジックなんかするから!そりゃねぇぜ!何でこんなことで死んじまうんだぁぁぁ」

「大丈夫だよ、落ち着いてアリューシャ」

「落ち着いてられるかよ!ルレ公が!死んだんだぜ!?首落っこちて!こんな残酷なことがあって良いのかよ!?うぉぉぉぉん!」

マジ泣き。

一方。

「あ、僕これ見たことあります、皇太子時代に。割と定番のあれですよね」

ルーチェスも知ってたか。

しかし、この手のマジックを知らない組は、

「ど、どうなってんだ…?」

「…!し、死んじゃった…!?ルリシヤ、死んじゃったの…!?」

困惑するルルシーと、アリューシャほどではないが狼狽えまくるシュノさん。

アイズはちゃんと分かってるらしく、ギャン泣きのアリューシャの背中を、よしよしと撫でていた。

と、そうこうしているうちに。

ルリシヤの首、復活。

「見たか。これぞルリシヤ・マジックだ」

「…お前…何処でそんなネタ仕入れてきたんだよ…」

呆れ半分、安心半分のルルシー。

そして。

「よ、良かったっ…!無事だったんだ。びっくりして、転ぶかと思った…」

俺の背中にしがみついて、ちょっと泣きそうになりながら安心しているシュノさん。

ふふ、大丈夫ですか?

の、一方で。

「うぁぁぁぁぁん!ルレ公が!あいつ良い奴だったのにぃぃぃ!ひでーよ!こんな終わり方はねーべさ!首チョンパなんて!有り得ねーよ酷過ぎだよ畜生〜っ!」

既にルリシヤの首は繋がっているのだが、アイズにしがみついて泣いているせいで、全然見えていないアリューシャである。

後ろ振り返ってご覧。復活してるから。

それはそれでびっくりしそうだな。

と、思っていたら。

「大丈夫だよ、アリューシャ」

「何が大丈夫なんだよ!?」

「後ろ見てご覧、後ろ」

「後ろには何もねぇ!アリューシャは前を向いて生きる!」

格好良いこと言ってる。

「アリューシャ先輩、前を向いて生きるのは良いが、たまには後ろも振り返ってくれ」

「ふぇ?」

つんつん、と後ろからルリシヤにつつかれ。

アリューシャは、涙でぐしょぐしょの顔を振り向かせた。

するとそこには、復活したルリシヤ。

このときの、アリューシャの顔。

時が止まった瞬間、再び。
「ぼっ…」

ぼ?

「ぼうれ∶]ε⊄·―〉$·Οばぁぁぁぁ!!」

もう、なんかコントみたいな感じになってきたな。

分かっていたことではあるが。

これが、アリューシャのトラウマにならなければ良いのだが。

「お化けだ!お化けだ!亡霊だぁぁぁ!ルレ公のぉぉ!」

「ふふふ。本物だぞ。輪廻転生してこの世に再臨した、新生ルリシヤをとくと見ると良い」

「マジか、ルレ公つぇぇぇぇ!!」

アリューシャが楽しそうで何より。

と、まぁこんな感じで。

およそ半年ぶりに、こんな日常を見ることが出来て、俺は満足である。
さぁ、アリューシャもおやすみの時間になり。

宴もたけなわ。

俺は一人、ワイングラスを片手に、テラスに出て夜空を眺めていた。

…様になると思わないか?俺みたいなイケメンがやったら。

ワイングラス片手に、夜空を見て黄昏れる…。

うん、良い絵面だ。

そして、そこにはお決まりのシチュエーションってものがある。

「…こんなところで何してるんだ?ルレイア」

「おっ、来ましたねルルシー」

待ってましたよ、あなたを。

このロマンチックな雰囲気のところに、恋人が一人でやって来る。

最高のタイミング。

しかしルルシー、一つケチをつけるとしたら。

そこの台詞は、「こんなところにいたのか」でしょう。

俺が不審者みたいじゃないですか。

まぁ良いだろう。それはそれ。

では、お待ちかねの。

「…告白タイムを、どうぞ」

「…は…?」

…。

夜空の下でロマンチック告白作戦、失敗。

全く、分かってないんだからルルシーは…。

でもまぁ、そんなところも好きだよ。