The previous night of the world revolution6~T.D.~

「おはようございます、エリアス…。じゃなくて、同志エリアス」

「あぁ、良いよ良いよ。『帝国の光』の中ではともかく、普段のときは普通に呼び合おう。俺達は同志である前に、友達なんだから」

友達(笑)。

まぁ、思い込むのは勝手だよな。

「じゃあ、エリアスと呼ばせてください」

「うん、そうしてくれ。俺もルナニアって呼ぶから」

好きにしてくれ。

いずれにしても、偽名なんだからさ。

「ルナニアも、これから『帝国の光』の本部に行くんだろ?」

「そうですよ。エリアスもですか?」

「あぁ。俺もそうなんだ」

そうですか。

「全く、夢みたいだよなぁ」

…?

お前の頭の中が?

「こうして、あの『帝国の光』の一員になれて…しかも、同志ヒイラに信用された、『裏党』の党員になれて」

はぁ。

そんな、目をキラキラさせて言うことか?

「『帝国の光』専用の社宅にまで住まわせてもらえるなんて。こんな名誉、他にないよな」

…。

…ルティス帝国総合大学の学生、っていう肩書の方が、世間的には遥かに立派だと思うけど。

お前とは価値観が合わないな。最初からだけど。

あんな監視付きボロアパートに住まわされて、あれが名誉だって。

「確かに、誇らしいですよね。『裏党』の党員だって、社宅に住まわせてもらえる党員は、ごく少数だそうですし」

「そうだよ。本当に名誉なことだよなぁ」

「…でも、エリアス。ちょっと気になることがあるんですけど」

別に、他意がある訳ではない。

単なる鎌掛けだ。

「気になること?」

「えぇ。何だかあの部屋って…誰かに見られてる気がしません?」

「えっ」

俺が声をひそめて言うと、エリアスは驚いたような顔をした。
「常に何処からか視線を感じると言うか…。特に水場とか…」

別に、水場だけ監視が強い訳じゃない。

ただ、エリアスをビビらせてやろうと思っただけだ。

水場って言うと…アレだろう?

そういうモノが出てくる定番だろ?

「な、何だよ…。まさか事故物件だって言うのか?確かに古い建物だけど…」

「いや、そこまでは言ってませんが…。なんか気持ち悪いときがあって…」

「や、やめろよ…。きっと気のせいだって」

「…そうだと良いんですけど…」

若干、ビビった様子のエリアス。

ふっ、ざまぁ。

お前、『帝国の光』なんていう、怪しげなオカルト集団に入り浸ってる癖に。

幽霊にはビビるのかよ。

『帝国の光』の方が、俺にとってはよっぽど恐ろしいが。

「そ、それよりさ」

エリアスが、強引に話題を変えてきた。

『帝国の光』の『裏党』党員ともあろう者が、幽霊にビビるな。

死神でさえ恐れをなして逃げていく、俺を見習え。

「ルナニアは、『帝国の光』で何やってるんだ?あんまり姿を見掛けないけど」

「…あぁ…」

そうですね。

俺、基本的にずっと地下にいるから、上にいるエリアス達と顔を合わせる機会がない。

でも、まさか「武器庫の奥にある秘密の研究室で、『光の灯台』っていうチートアイテム造ってるんだよねー(笑)」とも言えず。

そんなこと言ったら、ヒイラ大激怒だろうなぁ。

それはそれで面白そうだが、今はまだそのときではない。

ので。
「講演会の企画委員に選ばれたので、各地を転々としてるんですよ」

「へぇ、そうなのか」

勿論嘘だが、これは俺が考えた嘘ではない。

仕事内容について、他の党員に聞かれたときは、そう答えるように、と。

開発チームの全員に、そんな指示が出ている。

無論、ヒイラからの指示だ。

『光の灯台』について、徹底的に秘密にしておきたいらしい。

更に。

「エリアスの方は、何を?」

仕事内容についての話題が出たときは、即座に話題を変える。

これも、ヒイラからの指示だ。

「俺は、ひたすら集金係だよ」

と、苦笑いで答えるエリアス。

お前、まだ札束数えてたのか。

同じルティス帝国総合大学の学生なのに、この差よ。

ルリシヤからの推薦がなかったら、俺も今頃、陰鬱な顔して、一日中札束数えてたんだろうなぁ。

あ、それとも。

「各地を回って、募金を募ってるんですか?」

『ルティス帝国を考える会』にしょっちゅう来ていた、あの派遣員みたいなことをしてるのだろうか。

それならまだ、部屋に引きこもって札束を数えるだけ、という苦行からは開放される。

が。

「いや、俺は本部で数える係」

残念でした。

一日中万札の数ばかり数えていたら、頭おかしくなるだろうなぁ。

まぁ、万札だけじゃなくて、小銭もあるんだろうけど。

それが自分の金なら、夢の札束風呂という妄想に浸れるだろうに。

自分の金じゃない上に、その使い道は粗悪品の武器と、紛い物の研究に注ぎ込まれてるんだからなぁ。

やってられないだろうよ。

「大変ですね」

心から同情するよ。

札束だって、結局、紙切れの束に過ぎない訳だからな。

その紙切れに価値が付与されるから、大事なものになるだけで。

自分が使う訳でもない札束なんて、ただの紙切れだ。

一日中、ただの紙切れの枚数を数える。

想像しただけで嫌になる。

つーか、『光の灯台』を造るほどの技術があるなら、自動で金を勘定出来る機会くらい導入しろよ。

何で、そこだけアナログなんだよ。

さぞやエリアスもうんざりしているだろうと思って、労ってみたが。

しかし、エリアスの頭は、相変わらずお花畑なので。

「そんなことないよ。これもルティス帝国の未来の為に、必要な仕事なんだから」

あ、駄目だ。

完全にこいつ、頭がヒイラ脳に侵されてる。

「それに、お金の管理を任されるなんて、同志ヒイラ総統に信頼されてる証だ。そう思うと、全然大変じゃないよ」

残念でした。

お前、まだ全然信頼されてないよ。

「ルティス帝国の未来の為に、お互い頑張ろうな、ルナニア」

「えぇ。頑張りましょうね」

君の頭が、相変わらずお花畑で。

むしろ、俺は安心したよ。
さて。

エリアスと共に、『帝国の光』本部ビルに到着。

俺達はそこで別れ、エリアスは上に、俺は下に向かった。

いつもの、俺の仕事場。

地下研究室。

「おはようございます」

中に入ると、まるで御神体のように、「それ」が鎮座していた。

言わずもがな、『光の灯台』である。

とはいえ、まだこれは完全な『光の灯台』ではない。

試作一号機のこれはまだ、白く塗られた単なるクズ鉄の塊でしかない。

ルナニア・ファーシュバルの任務は、このクズ鉄を、完全な『光の灯台』にすること。

ルレイア・ティシェリーの任務は、このクズ鉄を、絶対に完成させないこと。

この対立する二つの任務を、同時にこなさなければならないのだから。

案外、札束数えてる方が楽なのかもしれないな。

すると。

「あぁ、君か。おはよう」

「おはようございます、博士」

白いクズ鉄の後ろから、サシャ・バールレン…もとい、

薄ら若ハゲ反抗期家出症候群のなんちゃって博士が、ひょっこりと顔を覗かせた。

全ての元凶なんだってな、お前。

ルルシーに聞いたよ。

ルナニアの任務が終わったら、お前ボコボコにする予定だから、宜しく。

まずは、その脳天に僅かに残った髪を、芝刈り機で焼け野原にするところから始めるとしよう。

今から楽しみだよ。

こんな奴を、博士と呼ばなければならないのが非常に遺憾。

実際、この男は、博士と呼ばれていながら、何もしていないのだ。
何もしていないってどういう意味か、と言うと。

本当に、何もしてない。

やがて、開発チームのメンバーが揃い、今日も少しでも『光の灯台』完成の為に、研究会議を行っているときも。

自称博士は、ただ見ているだけ。

と言うか。

口を挟みたくても、自分はよく分からないから、口を挟めないだけなのかもしれない。

でも博士としての地位は失いたくないから、会議そのものには参加して。

さも、自分も開発チームの一員ですみたいな顔をしている。

横っ面ぶん殴ってやろうか。

しかも、その研究会議だって。

研究会議と言えば聞こえは良いが、その中身はと言うと。

「どうだった?図書館の調査は」

「はい。音楽療法に関する本を、何冊か借りてきました」

「こちらは、世界のハーブに関する事典を探してきました」

ルリシヤの問いかけに、二人のメンバーが、意気揚々と答えた。

もう、この時点で笑止。

だってこいつら、「図書館で本借りてきました(ドヤッ)」だからな?

幼稚園児でも出来るわ。

図書館で本を借りるのは良いけど、その本を熟読して、必要な情報をまとめて資料にしてきました、とか。

せめて、本の内容を要約してレポートにしてきました、とか。

それくらいの努力を見せろよ。

しかも、ハーブって。

本家のテナイ・バールレンが泣いてるぞ。

ちなみに、「ハーブについて調べたらどうだろう」と提案したのは、他でもない俺だ。

『白亜の塔』とハーブに、何の関係もないことは知っている。

しかし、ハーブって、ハーブティーやアロマオイルに使われているだろう?

ハーブの中には、リラックス効果や催眠効果があるとされているものもある。

それを、『光の灯台』で再現出来ないか、という試みである。

提案したのは自分だが、内心大爆笑過ぎて腹わたが捩れそう。

んな訳ねーだろ、と。

音楽療法についてもそう。

世の中にそういう治療法が存在しており、一定の効果があることは認めるが。

それに、音楽による洗脳については、『ホワイト・ドリーム号』で体験させられたが。

あれは、あくまで『白亜の塔』の補助的機能しかなかった。

つまり、洗脳ミュージックだけで、完全に人を洗脳することは不可能という訳だ。

実際俺も、あの洗脳ミュージックは、聴かされても「なんか変な音楽だなぁ」程度の効果しかなかった。

あれにプラスして『白亜の塔』が働いていたから、気持ち悪くなっただけで。

あの音楽そのものに、人を洗脳する効果はない。

その効果を、『光の灯台』に…『白亜の塔』に応用するなど、検討違いも甚だしい。

アプローチとしては悪くないのかもしれないが、『白亜の塔』のからくりを知っている俺達としては、失笑モノである。

ハーブだの音楽だの、しかもそれについての本を借りてきた…程度で喜んでいる俺達では。

『白亜の塔』の再現、『光の灯台』の完成など、夢のまた夢だ。
つくづく、サシャ博士(笑)が馬鹿で助かった。

この男が馬鹿じゃなかったら、話はもっとややこしくなっていただろう。

俺とルリシヤでは、『光の灯台』の完成を止められなかったかもしれない。

この男が、『白亜の塔』に関するルーツを知る家系であることを自覚し、『白亜の塔』の設計図を持ち出し。

本気で、ルティス帝国で『白亜の塔』の再現を目論み、その為の人員と設備を整えていたなら。

今頃、マジでルティス帝国は、洗脳大国シェルドニア王国を再現していたことだろう。

あー、考えるだけで恐ろしい。

でも、このお馬鹿博士は、『白亜の塔』について勉強することを怠り、放蕩三昧で、おまけに反抗期と来た。

ほぼノープランで家出をして、兄へのちょっとした反抗心のつもりで、家宝まで持ち出して外国に逃げた。

そして、あわよくばルティス帝国で天下でも取ろうとしたのか、それとも興味本位だったのか。

自分の持つ『白亜の塔』に関する資料に、飛びついてくれたヒイラの存在が嬉しかったのか。

要するに、自分の持ってる自慢の「玩具」を、羨ましがってくれる人がいたので。

ちょっと良い気になって、博士気取りで研究を始めたのは良いものの。

ここに来て自分の不勉強が祟って、折角持ち出してきた開発資料も、あまり役に立たず。

博士を名乗ってる癖して、実は誰よりもこの研究についてよく分かっていないので。
 
ただ白衣を着て椅子にふんぞり返り、開発チームのメンバーが右往左往する様を見ながら、椅子で尻を温めているだけ。

滑稽極まりない。

まぁ、前述の通り、こいつがちゃんと『白亜の塔』に勉強していたなら、非常に厄介なことになっていたはずなので、馬鹿博士で助かったのだが。

とはいえ。

本当に『白亜の塔』について理解し、バールレン家の一員としての自覚があるのなら。

反抗期を起こすことも、家出することも、大事な開発資料を持ち出すことも。

その資料を用いて、ルティス帝国で一旗揚げようなどという馬鹿なことも、考えなかっただろうけど。

本当に賢い人間なら、そうなるよ。
 
でもこの馬鹿は、やらずにはいられなかったんだろうな。

自分が持ち出してきた設計図の一部を、完成させずにはいられなくなった。

何せ、おだててくれる人がいるんだもんな。
 
自国であるシェルドニアにいれば、自分は大したことのない、不勉強で不真面目な馬鹿貴族の次男としか見られないが。

そんな馬鹿貴族の次男でも、ルティス帝国に来れば、何だか凄く偉い人のように扱ってくれる。

そりゃあ気分も良いだろうよ。

おめでたい頭の人間が多くて、呆れ果てて物が言えないな。
だが。

会議の場では、積極的に意見を出さなければ、他のメンバー達からの信用度が下がる。

従って俺は、馬鹿な発言を延々と繰り返す。

「そうですね。それじゃまずは、その音楽療法に関する本を読んで、『光の灯台』に応用出来そうな箇所をリストアップしてみましょうか」

とんでもなく無駄な作業である。

だが、時間稼ぎには有効だ。

「分かりました。その作業は…同志ルナニア、あなたに頼めますか?」

おい。

音楽療法に関する本を借りてきたと言う女性党員が、俺にその本を手渡してきた。

お前が借りてきたのに、読んでレポート作成するのは、俺の仕事なのかよ。

まぁ、無理もない。

彼女は、ルリシヤが選んだなんちゃって精鋭開発チームの一員。

研究員に選ばられたにも関わらず、研究職なんて全く経験がない…どころか。

大した学歴を持つ訳でもなく、このような分厚い本は、読むだけでも精一杯なのだろう。

ましてや、その中から『光の灯台』に使えそうな文献を探し当てるのは、至難の業。

とてもじゃないけど自分には出来ない、と自覚してるんだろう。

だからこそ、本を借りてきただけで、それを読むことはしなかったのだろうし。

「なんかそれっぽい本見つけたから、持っていって読んでもらおう」とでも思ったんだろう。

浅はか。

自分で読め、自分で。

しかし。

「分かりました。任せてください」

仮にもルティス帝国総合大学の学生が、「そんな難しいこと出来ません」とは言えないので。

頼まれれば、引き受けざるを得ない。

実際、俺にとっては大した作業でもないしな。

それに、下手に他の奴の手に渡って、研究がおかしな方向に歪んでいったら困る。

あくまで、この研究の主導を握るのは、俺とルリシヤでなくてはならないのだから。

「頼めるか。済まないな、同志ルナニア」

その辺りの事情も熟知しているルリシヤが、俺にそう言った。

「いえいえ、お安い御用です」

「時間は、どれくらいかかりそうだ?」

おっ。

さすがルリシヤ、良い質問ですね。

時間稼ぎには最適の質問だ。

「そうですね…。一週間あれば、何とか出来ると思います」

嘘である。

こんなもの、一晩徹夜したら余裕。

しかし、敢えて時間を長めに申告しておくことで、少しでも時間を稼ごうという腹である。

とはいえ、一週間はちょっと長過ぎたか?

…と、思ったが。
「さすが、ルティス帝国総合大学の学生さんですね。こんな分厚い本を、一週間でまとめられるなんて…」

「頼りになります。同志ルナニア」

褒められた。

何これ嫌味?嫌味なのか?

いや、普通に羨望の眼差しで見られてるから、純粋に尊敬されてるんだろうけど。

お前ら本くらい読めよ。

「ハーブ事典の方は、どうしましょうか?」

あぁ。そんなもの借りてきたって言ってたな。

事典は、文章だけの本と違って、写真も載ってる図説本なので、比較的読みやすいだろう。

だが。

「これも、結構大変な作業ですよね。1ページずつ、ハーブの種類や効能を確認して…」

「時間がかかりそうですね」

お前らマジで、小学校からやり直せば?

ならば、ここは更に俺の株を上げさせてもらおう。

「それも、俺がやりましょうか?」

俺はお前達と違って、ちゃんと義務教育受けてきたから。

事典くらい読めるわ。

「え、でも…。同志ルナニアにばかり任せるのは、悪いですよ」

とか言いながら。

その、「じゃあやってもらえますかね」みたいな期待に満ちた顔、やめろ。

厚かましいなお前。自分も開発チームのメンバーだろ。

少しは役に立とうという気概を見せろ。

すると、他のメンバーが。

「同志ルナニアにだけ任せるのは申し訳ない。ここは、皆で調査するとしよう」

と、ここに来て初めて、まともな提案が出た。

「そうですね。皆でやった方が、色んな意見が聞けるでしょう」

「どうですか?同志ルニキス」

「そうだな。時間はかかると思うが、これも必要な作業だ。見落としがないよう、じっくり目を通そう」

ルリシヤも、時間稼ぎに乗り気。

じゃあ、ここはルリシヤの意見に従うとするかな。

ルリシヤは、ここの開発チームのリーダー的存在だからな。

そして。

「同志サシャ博士、あなたもそれで良いですか?」

「うん、そうだな。じっくり調べよう」

お馬鹿博士は、真剣な顔で頷いたが。

本当は何も分かってないはずなので、俺は内心大爆笑。

お前、本家の『白亜の塔』見てきた癖に。

あの機械にハーブの効能が使われているなんて、本気で思ってるんだろうか。

本当に何も分かってないんだな。

バールレン家の名が泣くぞ。
こうして。

俺達はその日一日。

テーブルの上にハーブ事典を置いて、皆でそれを取り囲み。

それぞれメモ用紙と筆記用具を片手に、いかにも神妙な顔をして、事典を1ページずつ読み耽ることになった。

この、地味で退屈な時間よ。
 
苦行でしかないので、早く終わってくれないかな。

だってこいつら、「ハイビスカスに洗脳効果があるかもしれない…」なんて、真面目な顔で思案してるんだよ?

ねーよ。

そもそも、ハイビスカスがハーブとして使えることを初めて知りました。

結構健康に良いらしい。

へぇ。初めて知った知識だ。

帰ったら、ハイビスカスティーでも飲もうか。

でも、『光の灯台』の役には、立ちそうにないな。
 
と、まぁ終始こんな調子なので。

まぁまぁ分厚いこのハーブ事典を、全員で読み終わるまでに、一体どれだけ時間がかかることか。

今日一日じゃ、まず無理だな。

良い感じの時間稼ぎにはなりそうだ。

ついでに、無駄にハーブに詳しくなりそう。

唯一懸念な点は、この長い作業にうんざりした誰かが、

「ねぇ、この作業って本当に意味があるの?」という真理に気づくことだが。

全員真剣な顔でページを見つめているので、今のところその心配はなさそうだ。

ルリシヤ以外、馬鹿ばっかで助かった。

…すると。

「邪魔するよ、同志達」

「…!同志ヒイラ!」

ハーブ事典と睨めっこしていた、俺達のもとに。

この研究のスポンサーである、ヒイラ・ディートハットが訪ねてきた。

こうして、不意に訪れるから嫌いだよ、こいつは。