The previous night of the world revolution6~T.D.~

更に。

「それにさー、あいつら。あの『帝国の光』って」

「ん?」

「皆平等〜とか言いながら、あれ…白い塔造ろうとしてるんだろ?」

あぁ、『白亜の塔』な。

「そんなもんで平等になって、皆喜ぶと思ってんのかね?」

「…さぁ…」

少なくとも、シェルドニア王国の人々は、皆幸せそうだが。

それが本当の幸せなのかどうかは、分からないな。

偽りだろうが、押し付けられたものだろうが、本人が幸せだと感じているなら、それは本物の幸せだ、と。

そう考えることも出来るし、偽物でも良いから幸福感を感じたいと思う人は、大勢いるだろう。

その証拠に裏社会では、そういった類の薬物が、いくらでも横行している。

手に入れた幸せが、自分の力で手にしたのではなくても。

それを自分が幸福と感じるなら、それで良い。

分からなくはない。

少なくとも、不幸であるよりずっとマシだろう。

「変な電波でアヘ顔晒すくらいなら、ゴキブリ生活してた方がよっぽどマシだぜ」

…まぁ、アリューシャみたいな考え方の人間もいる。

こればかりは、人の価値基準によって様々だろうな。

ヒイラは分かっているのだろうか。アリューシャみたいな考え方の人間もいるんだってこと。

いくら貧しいからって、そんな救われ方をされたいと、誰もが望むと思っているのだろうか。

幸福であれば、その形が何であろうと構わないのだろうか。

それともお前は、本当は平等な世の中なんて、どうでも良くて…。

…と、そこまで考えていると。

「ふわぁ〜…。ルル公が難しい話ばっかするから、アリューシャ眠くなってきたよ」

そう言って、アリューシャはばふっ、とベッドに大の字に寝そべった。

「あ、うん。いきなり変なこと聞いて悪かっ…」

「…zzz…」

「…寝てるし…」

早くね?

最後に会話してから、今、10秒もたってなかったんだけど?

しかも。

「毛布かけろよ、馬鹿…」

アリューシャが掛け布団なしで寝ようが、床で寝ようが、好きにすれば良いが。

そのせいでアリューシャが風邪を引いたら、俺がアイズに責められそうなので。

仕方なく、へそ出して寝てるアリューシャの上に、毛布をかけてやったのだった。

その無邪気な寝顔は、決してゴキブリなどと罵るようなものではなかった。

…良い夢見ろよ、アリューシャ。
翌朝。

「…」

俺はベッドから起き上がって、身体の調子を確かめた。

…よし。

胃腸は元気そうだ。

昨日、とんでもないものを食べさせられたからな。

食べさせられたって言うか、俺が知らずに食っただけなんだけど。

どうやら俺の胃腸は、カエルの卵パンに適応してくれたようだ。

良かった。

…。

…良かったのか?

まぁ、具合が悪くならなくて良かったよ。

それで。

隣のベッドに寝ているであろうアリューシャを、起こそうとしたら。

「…うわっ」

思わず、びっくりして声を上げてしまった。

アリューシャはうつ伏せになって、上半身をだらりと垂らしてぶら下がり。

下半身の方は、かろうじてベッドの上に留まっていた。

かけてやったはずの毛布は、アリューシャの身体にぐるぐる巻きになっており。

さながら、アリューシャ巻き寿司みたいになってる。

どうやったら、そんな体勢になるんだ?

「どうなってんだよ、お前…」

寝相が悪いとか、そういう次元じゃないぞ。

しかも。

「おい、アリューシャ起きろ」

「…zzz…」

俺にはこれから、まず「アリューシャを起こす」という、最大の難関を突破しなければならないのである。
何だ、別に寝てる人を起こすくらい、なんてことないじゃないか、と。

思った、そこのお前。

さては、このアリューシャの寝穢さを知らないな?

まず、第一段階。

「…おい、起きろアリューシャ」

名前を呼んでみる。

「…zzz…」

当然、こんなことで起きるはずがない。

この程度でアリューシャが起きたら、むしろ「大丈夫か?眠れなかったのか?」と逆に心配になるレベル。

次、第二段階。

「起きろアリューシャ!」

肩を揺さぶってみる。

大抵の人間なら、これで起きる。

しかし、この歴戦の勇者は。

「…zzz…」

まぁ、この程度で起きるなら、俺も毎回苦労してない。

仕方ないので、第三段階。

携帯のアラームを、「ジリリリリリ!!」と爆音で流してみる。

もしかしたら、隣の部屋まで聞こえているかもしれない爆音である。

隣の人、起こしちゃったらごめんな。

と、俺は隣人の睡眠事情まで気にしているというのに。

目の前のアリューシャは。

「…zzz…」

それがどうしたとばかりに、眠り続ける。

人によっては、もう眠っているのではなく、死んでいるのではないかと疑うレベルに到達している。

じゃあ次、第四段階。

「…起きろって言ってるだろ、馬鹿アリューシャ!」

後頭部を、まぁまぁの勢いでひっぱたいてみる。

普通の人なら、「いった!何するんだ!」と怒るくらいの威力。

しかし。

歴戦の勇者は、そんなことでは目覚めない。

「…zzz…」

まだまだぐっすり、夢の中。

こうなってくると、もうそろそろ、諦めがつく。

起こすのではなく、自然に起きてくるのを待とう、と。

確かに、ここでいくらアリューシャを起こそうとしても、無駄な努力だ。

頭から水をぶっかけようが、耳元でフライパンをガンガン鳴らそうが、アリューシャが起きることは決してない。

ならもういっそ、そのまま放っておいて、自然の成り行きに任せる方が、余程時間を有効的に使えると言うものだ。

しかし。

今日の任務には、アリューシャが不可欠。

いつまでも放っておいて、時間を無為に過ごす訳にはいかないのだ。

ましてや、この洗脳国家ではな。

一秒たりとも、長居したくはない。

よって、俺はアリューシャを起こすという、無謀とも言える選択をする。

と言うのも。

この居眠り勇者には、致命的な弱点がある。

アリューシャの、本当の保護者であるアイズから、きちんとその「方法」を教わっている。

そして俺は、昨晩の夕食バイキングで、ちゃんとシェフの方に聞いてきた。

故に、準備は万端。

ここまでしても起きないアリューシャを、一体どうやって起こすのかと言うと。

大声を出すのでも、ひっぱたくのでもない。

ただ一言、こう囁やけば良い。

「アリューシャ。今朝の朝食バイキング、ジェラートが出るんだってさ」

「え、マジ?」

あっさりと。

ぱっちりと。

アリューシャは目を開けて、むくっ、と起き上がった。

音を出しても駄目、叩いても殴っても水をかけても駄目。

しかし。

食べ物で釣ると、めちゃくちゃあっさり起きるのが、このへっぽこ歴戦の勇者、アリューシャなのである。
…その後。

朝食の席にて。

「うめー!」

「良かったな…」

アリューシャは、釣られて起きたジェラートを、もぐもぐ食べていた。

「ルル公は食わねぇの?」

「あぁ」

「何でー?美味いのに」

「…」

そうだな。見た目はピンク色で、ストロベリージェラートみたいで美味しそうだが。

昨日、シェフに聞いたとき教えてくれたよ。良い笑顔でさ。

「明日のデザートは、シェルドニアガラガラヘビの肝を、たっぷり使ったジェラートですよ」と。

俺は思ったね。絶対食わねぇって。

アリューシャには、そのジェラートの正体は教えなかった。

教えたところで、アリューシャなら気にせずバクバク食べそうだがな。

まぁ、そんなことはどうでも良い。

「アリューシャ」

「うみゅ?」

俺は、ルティス語でアリューシャに話しかけた。

こうすれば、周囲がシェルドニア人ばかりの場所でも、気にせず会話が出来る。

…と言っても、そもそもアリューシャはシェルドニア語を知らないから、ルティス語で話すしかないんだけどな。

「お前、ここに何しに来たのか、ちゃんと分かってるな?」

「?ジェラート食べに来た!」

そういう意味じゃねぇ。

「ちげーよ。何でシェルドニア王国まで来たのか、そこを分かってるのかって聞いてるんだ。俺達の任務だよ」

「任務…?…。…分かってるよ!」

ちょっと考えただろお前。今。

本当に大丈夫なんだろうな?

スナイパーとしてはこの上なく信頼出来るが、如何せんオツムの方は信用ならない。
相変わらずサングラスをかけて、変装するような格好をした俺達は。

ホテルを出てすぐ、「任務地」に向かった。

ここからは、アリューシャとは別行動である。

仕事用のインカムで、連絡を取り合うことになる。

俺は指定のポイントについて、アリューシャに連絡を取った。

「アリューシャ。着いたか?」

『おけおけ。警備ガバだねーこの建物。びっくりするくらいあっという間に侵入出来たよ』

だろうな。

シェルドニア王国は、世界で一番犯罪発生率が低い国。

これだけ聞けば、なんて治安の良い国なんだろうと思うが。

俺達は、この治安の良さのからくりを知っている。

これら全てが、『白亜の塔』によるものだと。

そして。

生まれたときから、『白亜の塔』の影響下にあり、反抗したり犯罪を犯すことを知らない国民達は。

良くも悪くも、危機感というものを知らない。

国民全体の気質が穏やか過ぎるせいで、「まさか悪いことを企む人がいるはずがない」という空気が蔓延している。

だから、俺達はそこに付け入らせてもらう。

『そっちの様子は〜…っと…。おーおー。女王様が住むお城だってのに、警備は門番二人だけかよ。しょぼっ』

「あぁ。それはここからも見えてるよ」

まず、一般人である俺が、王宮の近くにこんなに接近出来るのがおかしい。

ルティス帝国の王宮だったら、まずここまで近づくにも一苦労だ。

それに比べ、シェルドニア王国の王宮は、今俺の目と鼻の先にあるも同然。

警備が手薄なのも、「王宮に手出しする国民がいるはずがない」と思い込んでいる証だ。

つい先日、王様が暗殺されたばかりで国が荒れたというのに、まるで何事もなかったかのように静かだ。

これも、全て『白亜の塔』の影響だ。

不自然に国王が変わろうと、国民は何の疑いも持たず、新しい国王を無邪気に讃える。

「警備はたかが二人だ。俺が…」

と、言いかけると。

『まぁ待て待て。ルル公は奇襲係なんだから。ここは分担していこうぜ』

「分担?」

『門番二人と、門のセキュリティはアリューシャがぶっ壊す。あと、門から建物までにあるカメラと…あれは自動迎撃マシンガンだな。あれもぶっ壊すよ』

…さすがアリューシャ。

スナイパーの「目」は、前線にいる俺なんかより、ずっと視野が広い。

「奴らも、一応襲撃の備えはしてるんだな」

『お粗末過ぎて笑えてくるけどな。大体、こんなベストポジションで王宮を狙える位置に、お誂え向きの建物がある時点でお察しだろ』

全くだ。

ルティス帝国王宮なら有り得ないな。

まぁ、それでもアリューシャは王宮の窓をぶち抜いていたが。

あれはアリューシャがチート過ぎるのだ。

「とはいえ、警戒は怠るな。位置がバレたら危ない。適宜移動しろよ」

『おいおい、スナイパーの基本をアリューシャに講釈か?』

「…そりゃそうか。悪かったよ」

俺が言うまでもなく、お前は誰より優秀なスナイパーだよ。

「よし、始めるぞ」

『あいよ』

と、言った瞬間。

アリューシャのライフルが、火を吹いた。
ぽすっ、ぽすっ、と。

連続して、可愛らしい音がして。

見張りに立っていた二人に、アリューシャの撃った弾が着弾していた。

門番の二人は、自分に弾が当たったことに、一瞬気づかなかったらしく。

「あれ?」みたいな顔をして、そして驚愕に目を見開いた。

そして、気づいたときにはもう遅い。

二人共、血飛沫をあげて倒れ…、

…は、しなかった。

いや、倒れたのは事実だが。

血飛沫をあげたりはしなかった。

アリューシャが撃ったのは、単なる麻酔弾。

殺す為の弾丸ではなく、身体を麻痺させ、無力化させる為の弾だ。

そして。

僅かな間を開けて、今度は実弾が命中した。

王宮を守る門の、セキュリティロックを破壊したのだ。

…今更ながら。

よく当てるよ。あんな小さな的に。

…さぁ。感心してる場合じゃない。

アリューシャが、己の役目を果たしたのだ。

なら、次は俺の番だ。

「っ!」

俺は物陰から走り出し、壊れた門を突き破って、王宮の敷地内に飛び込んだ。

倒れた門番達が、何か言おうとしていたが。

悪いが、構っている暇はない。

それに。

侵入者が現れるや、シェルドニア王宮の最低限の防衛システム、自動迎撃マシンガンが、俺をターゲットに捉えた。

だが、俺は意に介さなかった。

ルレイアじゃないが、ただ真っ直ぐ、真正面から突き進んだだけだ。

マシンガンごときで、俺を阻むことは出来ない。

何故なら。

マシンガンが俺に向かって発射される、その寸前。

バキンッ!と破砕音がして、マシンガンが呆気なく破壊された。

マシンガンは一つだけではない。

王宮入り口に向かうまでに、前後左右を取り囲むように張り巡らされた、自動迎撃マシンガンは。

一発も、俺に向かって弾を発射することが出来なかった。

理由は簡単だ。

マシンガンが俺を捉え、発砲する前に。

全て、アリューシャが狙撃でマシンガンを破壊しているからである。

一発も撃ち漏らすことなく、あっという間にマシンガンは沈黙した。

更に。

固く閉ざされた王宮の扉までも、門と同じくあっさり狙撃で破壊。

…アリューシャの狙撃の腕前は、最早言うまでもないが。

シェルドニア王宮の警備、いくらなんでもガバガバ過ぎないか?
ひとまず。

これで、侵入は成功した。

「アリューシャ。狙撃ポイントを移動しろ」

『ルル公一人で大丈夫かよ?』

「時間稼ぎが出来れば良い。『真打ち』が出てくるまでに、一度移動して、態勢を立て直してくれ」

『りょ』

アリューシャが、狙撃ポイントの移動を開始した。

だから、俺がやるべきことは。

事の次第を聞きつけて、『真打ち』が出てくるまでの間。

ここで、王宮内の警備兵を足止めすることだ。

「…さて」

ルレイア並みの、ダイナミック入室を果たした俺は。

立ち止まり、両手に拳銃を持って、周囲を見渡した。

いかに、ガバガバな警備とは言えど。

さすがに、王宮内の守りは、最低限固めているようで。

騒ぎを聞きつけたらしい警備兵達が、俺の周りに集まり始めていた。

…しかし。

「…相変わらず、全く怖くないな」

一応、訓練された警備兵なのだろうが。

前述の通り、シェルドニア王国は、『白亜の塔』の影響のせいで、平和に慣れ過ぎている。

それ故に、イレギュラーな事態に弱い。

警備兵達は、一応拳銃や刃物を持ってはいるが。

顔には、ありありと動揺と狼狽が浮かんでいた。

「言われたから来てみたけど、どうしたら良いのか分からない」って顔だな。

簡単に言うと、全員へっぴり腰なのだ。

一通りの訓練は受けているのだろうが、訓練と実戦は、天と地ほどの差がある。

平和な訓練を受けたことはあっても、本当の実戦は経験したことがない彼らから、全くプレッシャーは感じなかった。

こいつらは兵隊と言うより、ただの一般人だ。

一般人に重火器を持たせても、扱えないのと同じ。

皆、武装しているのに、ちっとも敵意を感じない。

これなら、『青薔薇連合会』の末端構成員の方が、まだ士気が高いぞ。

国が平和だと、いざイレギュラーな事態が起きたとき、即座に対処する能力が失われる。

そのように仕向けられているのだから、彼らには何の罪もないが。
駆けつけた警備兵の数は、およそ20人ほど。

ルレイアなら、一刈りで一掃出来る数だな。

そして俺は、いつもそんなルレイアの横について、一緒に戦ってきたのだ。

今更、数の暴力にはビビらない。

ましてや、こんなへっぴり腰集団など、何人集まろうと数のうちに入らない。

俺は、最大限の殺気を放った。

恐らく、彼らが初めて経験するであろう、

本物の、マフィアの殺気だ。

「…来いよ」

敢えて、シェルドニア語でそう言った。

どれだけ国が違っていようと、これが何を意味するのかは分かるな?

別に、挑発したつもりはない。

こんな烏合の衆、怖くもなんともない。

束になってかかってこられようと、まとめて返り討ちにしてくれる。

しかし。

「ひっ…」

「う、うぅ…」

情けないことに。

シェルドニア兵は、立派な小銃やショットガンを持って、俺より20倍も数の優位を取っていながら。

俺に挑んで、前に出る者は一人もいなかった。

それどころか、俺の殺気に怯えて、後退りする始末。

20人全員が、「誰か先に行ってくれ」と無言で言い合っている。

…アシミムよ。

お前の軍隊は、全く軍隊として機能してないな。

気の毒になってくるが、しかし、これがお前の国のやり方なのだから。

同情する必要はない。

俺は、手前にいた、震える手で拳銃を握っている若い男性兵士に、拳銃を向けた。

「ひ、ひっ!」

銃口を向けられ、彼は反射的に拳銃を向けてきたが。

あんなへっぴり腰じゃ、当たるものも当たらない。

そんなことより。

「アシミム女王と、ルシード・キルシュテンをここに呼べ。『青薔薇連合会』の幹部が来たと伝えろ」

俺は、彼らにも分かるよう、シェルドニア語で伝えた。

「え、え…?」

「…もう一度言わせる気か?」

「ひっ…」

呆ける兵士に向かって、再び殺気を浴びせてやると。

彼は怯えた表情のまま、伝言を伝えに踵を返した。

…本当に、実戦慣れしてないにも程があるな。

突然侵入してきた、得体の知れない敵に、自分達の国王を連れてこいと命じられ。

素直に、それに従おうとするなど。

そこは普通、「武器を捨てて投降しろ」と、逆に脅しをかけるところだろうに。

まぁ良い。

「来客」が俺達であることを知れば、奴らは俺達を無視出来ないのだから。
拳銃を向けて、怯え顔の兵士と、しばらく睨み合っていると。

『…ルル公。狙撃ポイントに着いた』

インカムから、アリューシャの声がした。

…よし。こちらの準備は整ったな。

『取り囲まれてんね、ルル公。何人か威嚇射撃でもしようか?』

「いや、そのまま待機だ。狙撃のタイミングは、俺が指示する」

俺は、ルティス語で答えた。

こうしてルティス語で話せば、シェルドニア人の兵士達には、俺が何を言ってるのか分かるまい。

ともかく、「真打ち」達が…ルシードとアシミムが来ない限りは、俺達も動かない。

向こうがアシミムを出し渋るのなら、威嚇も視野に入れるが。

『それは良いけどよ。ルル公が危ねーと思ったら、その前にアリューシャが撃つぞ』

「分かった。そうしてくれ」

『で、こんなルレ公じみた特攻やって、ルシード…ルシ公とアシ公は、本当に来るの?』

お前は、誰にでもその呼び方をしなきゃ気が済まないんだな。

まぁ、ルレイアなんて、もっと酷い呼び方してるから(ゲロ顔縦ロールお嬢様(笑)とか)。

それに比べれば、アリューシャは可愛いもんだ。

「来るよ」

『ふーん…。何で?』

「こう脅せば、奴らは俺達を無視出来ない…って、お前の大好きなアイズが言ってたからだ」

『成程。説得力あるわ〜』

アイズが言うんだから、間違いはないな。

俺は、ここで待っていれば良い。

そして。

「お前達、下がっていろ」

「る、ルシード隊長!」

シェルドニア兵士達の後ろから。

ひときわ背の高い、長い髪を後ろで一つに束ねた青年が現れた。

彼を見て、兵士達は救世主がやって来たと言わんばかりの表情。

それもそのはず。

華弦という、大事な戦力がいなくなった以上。

恐らくこの王宮で、最も実力を持った「戦士」は、この男を除いて他にいない。

「…久し振りだな。ルシード・キルシュテン」

「…ルルシー・エンタルーシアか」

アシミムの懐刀であり、俺達の仇敵でもある男。

ルシードが、この場にやって来た。

な?アイズの言った通りだったろう?