The previous night of the world revolution6~T.D.~

前回までのあらすじⅡ



『青薔薇連合会』と帝国騎士団の、一連の騒動が落ち着き。

比較的平穏な日々が続いていたルティス帝国。

私立ランドエルス騎士官学校に通うルナニア・ファーシュバルは、多くの友人達に囲まれ、日々穏やかに過ごしていた。

しかし一方で、ルティス帝国には脅威が迫っていた。

ルティス帝国の隣国、箱庭帝国のマフィア、『シュレディンガーの猫』である。

祖国を追放された『シュレディンガーの猫』は、ルティス帝国に侵入し、数々の狼藉を働いた。

そのことに頭を痛めた帝国騎士団は、『青薔薇連合会』に協力を求め、『シュレディンガーの猫』の討伐を計る。

『青薔薇連合会』と帝国騎士団との会合の席には、ルナニア・ファーシュバルの姿があった。

ルナニアの本名はルレイア・ティシェリー。

ルレイアは、ランドエルス騎士官学校に潜んでいるという『シュレディンガーの猫』のスパイを探る為に、姿と名前を変え、学生の仮面を被り、ランドエルスに入学していたのである。

その後ルレイアは、ランドエルスに潜んでいた『シュレディンガーの猫』のスパイ、カセイ・リーシュエンタールを探り当てる。

彼はカセイに交渉を持ちかけ、『シュレディンガーの猫』の総帥、Xに会いに行く。

その際ルレイアは、『青薔薇連合会』は帝国騎士団を裏切り、『シュレディンガーの猫』に協力することと。

『シュレディンガーの猫』と協力して、帝国騎士団を討ち滅ぼすことを、Xに提案する。

Xはこれを受け、『青薔薇連合会』は帝国騎士団を裏切り、『シュレディンガーの猫』と同盟を結んだ。

しかしこの同盟は、ルレイアが仕組んだ仮初めの同盟であった。

『青薔薇連合会』は帝国騎士団を裏切ってはおらず、『シュレディンガーの猫』に協力していると見せかけて、後ろから『シュレディンガーの猫』を撃つつもりであった。

ルレイアはこの計画を帝国騎士団に納得させる為、自らの腹心であるルルシー・エンタルーシアを、帝国騎士団に人質として渡した。

帝国騎士団と協力しながら、『シュレディンガーの猫』にも疑いを抱かせずに協力するという、絶妙な均衡を保ち続ける中。

ルレイアはルナニアとしての仮面を被り、周囲を欺く日々を送った。

期が熟し、『シュレディンガーの猫』と共に帝国騎士団を討つ計画の前日。

『青薔薇連合会』は帝国騎士団と共に『シュレディンガーの猫』を襲撃する。

『シュレディンガーの猫』の総帥X、以下ほぼ全ての構成員がその場にて死亡。

ランドエルスに潜んでいたスパイ、カセイ・リーシュエンタールもまた、ルナニアことルレイアに撃たれ、志半ばで潰えた。

こうして『シュレディンガーの猫』を巡る一件は幕を閉じ、ルレイアとルルシーは『青薔薇連合会』に帰還した。


《外伝 あらすじ》



ルヴィア・クランチェスカは、『青薔薇連合会』幹部、ルルシー・エンタルーシア直属の部下であり、また『青薔薇連合会』準幹部であった。

彼はある夜、偶然身寄りのない占い師の若い女性と出会う。

女性の名はフューニャ。ルヴィアは行き場をなくしたフューニャを自分の家に連れて帰り、彼女と同棲を始める。

しばらく同棲生活を続けた後、フューニャはルヴィアに、自分が箱庭帝国からの脱国者であることを告げる。

国籍のないフューニャの為、ルヴィアは上司に頭を下げ、彼女がルティス帝国で生きられるよう、国籍を取得させた。

更にルヴィアはフューニャに求婚を申し出、フューニャはこれを受け、二人は夫婦として同じ姓を名乗ることになった。

事あるごとにフューニャに尻に敷かれ、妻に頭の上がらないルヴィアであるが、二人は深く愛し合い、新婚らしい幸せな日々を過ごしていた。




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前回までのあらすじⅢ



『シュレディンガーの猫』との抗争も終わり、『青薔薇連合会』に平和が訪れたのも束の間。

隣国箱庭帝国では、閉鎖された国を解放する為、武力を以て立ち上がった若者がいた。

若者の名は、憲兵局長官の息子、ルアリス・ドール・エーレンフェルト。

彼は『青薔薇解放戦線』と名乗る革命軍を率い、憲兵局と戦う為の助力を得に、ルティス帝国貴族フランベルジュ・ティターニアの手引きでルティス帝国にやって来た。

ルアリスは帝国騎士団と『青薔薇連合会』に使者を送り、助力を乞うが、ルレイアは革命軍との関わりを拒否する。

しかし、その後ルティス帝国に入ってきた憲兵局の追っ手が、革命に協力するルティス帝国民の命を狙い始める。

『青薔薇連合会』は革命には協力していなかったが、ルアリスが使者を送ったことにより「革命軍と接触した」と判断され、憲兵局の追っ手がルルシーを暗殺しようとする。

ルルシーを傷つけられたことに激怒したルレイアは、ルルシーを狙ったのが憲兵局だと知るや、革命軍に協力し、憲兵局に復讐することを決める。

ルレイアは、革命軍を指揮するには未熟だったルアリスを自分流に教え導き、ルアリスと、彼の率いる革命軍も徐々に成長していった。

その途中、憲兵局から和平交渉の申し入れがあり、ルアリスは罠と知りつつも故郷に戻るが、やはり憲兵局に捕らえられてしまう。

しかし、ルアリスは憲兵局の中に潜んでいたスパイ…『シュレディンガーの猫』の生き残りであるカセイ・リーシュエンタールの手引きで、ルティス帝国に帰される。

その後、ついに憲兵局との戦いが始まった。

『青薔薇連合会』が協力したこともあり、憲兵局はなすすべなく降伏した。

こうして、ルアリスは祖国を解放した革命軍の英雄として語られることになった。



しかし、箱庭帝国の革命は、その後ルティス帝国に波乱を巻き起こすことになる。

革命の余韻も冷めやらぬ、ある夜のこと。

いつも通りルルシーの家で夕食を共にし、帰宅していたルレイアの身に、暗殺者が迫る。

ルレイアに匹敵するほどの力を持ったその男は、ルニキス・エリステラと名乗り、ルレイアを暗殺しようとした翌日、自ら『青薔薇連合会』に出頭してきた。

ルニキスは『セント・ニュクス』の元リーダーだったが、組織を追われて転職する為にルレイアを襲い、『青薔薇連合会』の幹部になることを求めた。

ルルシーは反対したが、ルレイアがこれを後押しし、ルニキス…本名ルリシヤ・クロータスは『青薔薇連合会』六人目の幹部となった。

しばらくは、その出自と過去を隠していたルリシヤだったか、やがて『セント・ニュクス』が『青薔薇連合会』に宣戦布告してきたことにより、状況が一変する。

彼はかつて、クレマティス家という貴族の出身だったが、優秀過ぎた為に兄に疎まれ、貴族権を剥奪されてしまう。

その後親友となるグリーシュ・ベルスターと出会い、二人で『セント・ニュクス』を立ち上げたが、グリーシュは『愛国清上会』と名乗る謎の組織にそそのかされ、ルリシヤを裏切り、組織から追放する。

そしてグリーシュは『愛国清上会』に利用されるままに、禁止されている化学兵器を製造、使用してしまう。

この事態に、『青薔薇連合会』と帝国騎士団は『セント・ニュクス』を討伐することを決意する。

頑なに拠点の在処を隠す『セント・ニュクス』だが、ルレイアの機転によって無理矢理暴き出され、ついにルリシヤがグリーシュを討ち、両者の因縁に終止符を打つ。

アリューシャの恩人によって『愛国清上会』の拠点を突き止めたルレイア達は、帝国騎士団とも協力して、一気に襲撃を仕掛ける。

そこで『セント・ニュクス』に協力していた『愛国清上会』の正体が、憲兵局の残党であることを知る。

『愛国清上会』を討伐した後、ルリシヤは改めて『青薔薇連合会』の幹部として生きていくことを誓う。






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前回までのあらすじⅣ

ルレイア、ルルシー、ルリシヤの三人は、帝国騎士団長オルタンスからのプレゼントと偽られた旅行に向かう。

彼らが乗り込んだのは、シェルドニア王国の豪華客船、『ホワイト・ドリーム号』であった。

しかし、船の中で『白亜の塔』による洗脳を受け、ルレイアは昔の過去を思い出してしまう。

『ホワイト・ドリーム号』という名の洗脳船は、シェルドニア王国に向かう。

シェルドニア王国は、一見豊かで平和な国に見えて、その実は国民を洗脳し、強制的に従わせる洗脳国家であった。

一行が連れていかれたのは、シェルドニア王国の貴族、アシミム・ヘールシュミットの屋敷だった。

アシミムの目的は、現在の国王…自らの叔父を殺害し、囚われの身となっている弟を救い出すことだった。

その為に、ルレイアをシェルドニア王国に連れてきた。

ルルシー、ルリシヤの二名はヘールシュミット邸から脱出し、機を待ってルレイアを救出する作戦を立てる。

しかし、ルレイアは過去の記憶を書き換えられ、完全にアシミムに洗脳されてしまっていた。

一方ルティス帝国では、アイズレンシア、アリューシャ、シュノの三人を始めとして、帝国騎士団や箱庭帝国のルアリスも協力し、ルレイア一行を救出する為に画策する。

ルルシー、ルリシヤの二人は、アシミムの腹心でありながら、アシミムを密かに憎んでいた華弦(かげん)とも密通しながら、ルレイアを取り戻す為、二度目の奪還作戦を立てる。

これが成功し、ルレイアは自分の救世主を再確認する。

ルレイアは、シェルドニア王国の国王、密かにルティス帝国侵略を企んでいたミレド・トレギアスを暗殺。

無事に、三人揃ってルティス帝国に帰国する。

しかし、洗脳の影響が消えていないルレイアとルルシーは、過去とのけじめをつける為、それぞれ因縁の場所に向かう。

そこで自分達のアイデンティティを再確認し、改めて闇の中に生きることを誓うのだった。





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前回までのあらすじⅤ



シェルドニア王国での一件が収まった頃。

ルティス帝国は、不景気の波に襲われていた。

そんなとき、とある新興宗教団体が台頭する。

教祖ルチカ・ブランシェット率いる、『天の光教』である。

やがて『天の光教』は、ルティス帝国全ての国民が『天の光教』に入信することと、腐敗したルティス帝国の王侯貴族制度を打破することを目標に、

国内各地で、様々なデモ活動を行い始める。

一時は、国民のほぼ全員が『天の光教』を応援する空気が出来上がっていた。

そこで、現状の政治体制を維持したいという利害の一致で、『青薔薇連合会』と帝国騎士団は結託、『天の光教』と敵対することになる。

結果、帝国騎士団による経済政策と、ルレイアが半ば強引に行った、シェルドニア王国との貿易によって、ルティス帝国の景気は回復。

それを機に、『天の光教』信者は、次第に求心力を失っていく。

この事態に焦りを感じた、教祖ルチカ・ブランシェットは、自らを殉職者として、帝国騎士団の面々と『青薔薇連合会』の幹部達を道連れにしようと、自爆テロを試みるが。

『青薔薇連合会』幹部、ルリシヤの仮面の勘により、これを阻止。

『青薔薇連合会』と帝国騎士団の共同戦線において、ルチカ教祖を逮捕、後に『天の光教』は解体され。

『天の光教』騒動は、幕を下ろしたのだった。




一方、ルティス帝国王室では、名を知られぬ一人の王子がいた。

その王子の名は、ルーチェス・ジュリアナ・ベルガモット。

彼は、前女王のローゼリア、現女王アルティシアの弟であったが、不義の王子であるとの影の噂のせいで、あまり存在を知られてはいなかった。

更に彼は、姉ローゼリアの腐敗した政治や。

帝国騎士団長オルタンスが行った、かつてのローゼリア女王暗殺未遂事件で、当時四番隊隊長だった人物(ルレイア)に罪を着せ、事件を隠蔽しようとした行為、

そして本人が持つ「自分の人生は自分で決めたい」との意志のもと、密かに王宮で鍛錬を積んでいた。

ある日彼は、憧れの存在であったルレイアがいる『青薔薇連合会』に、単身襲撃を仕掛け。

紆余曲折ありながらも、ルレイアの弟子となる。

その後ルレイアの紹介で、とある風俗店に勤める女性、セカイと出合い、彼女と結婚を誓い合う。

二人は互いに愛情を深め、『青薔薇連合会』でも、ルレイアの弟子として信頼を獲得していく。

しかし、王族が一般人との結婚をすることは許されず、更に母親である王太后に無理矢理、政略結婚させられそうになったことと、

その折に、セカイには『青薔薇連合会』傘下の反政府組織から、多額の借金があることで、今も脅されており、結婚は出来ないと言われてしまう。

ルーチェスは師匠ルレイアの流儀を見習い、これら全ての困難を打ち破る為に、力ずくで『青薔薇連合会』傘下の反政府組織を打倒。

結果的に、王族としての地位を追われることとなる。

が、代わりにフィアンセであるセカイを取り戻し、同時に、正式に『青薔薇連合会』に加入。

ルーチェス・アンブローシアと名前を変え、『青薔薇連合会』特務諜報員、別名『裏幹部』に任命され。

愛する人との結婚を果たした上に、実質『青薔薇連合会』の幹部に上り詰めたのだった。
ーーーーーー反逆。

反抗。蜂起。革命。反乱。

世の中従順にしていた方が、大抵の場合上手く回るというのに。

全くどうして人間というものは、大人しくじっとしていられないのだろう。

生まれたときから、従順で大人しく、温和で平和主義な俺には、理解が出来ない。














…あ、復讐は別な?
――――――…俺の名前は、ルーシッド・デルマ・スヴェトラーナ。

帝国騎士団四番隊隊長である。

今年の春から、俺は帝都にある、国内屈指の難関大学、王立ルティス帝国総合大学に入学することになった。

学生生活を始めるに至って、俺はとある人物と共同で、マンションを借りることにした。

ルームシェアという奴である。

とりあえず、ここまでは良しとしよう。

いや、ここまででも、充分ツッコミどころは満載だと思うけど。

ここまでは良いということにして欲しい。

何故なら。

俺にとっては、もっとツッコみたいことがあるからである。

それは、今日から俺のルームメイトになる、とある人物に帰来する。

「あ、それはそこの部屋に。そっちはチェストに収めて…。…車?あぁ、この間会員が貢いできたアレですか?要らないんで持って帰ってください」

「はい、ご主人様」

「畏まりました」 

リビングルームに(俺に無断で)設置された、超ゴシックな真っ黒のソファに腰掛け。

彼は、悠々と足を組み、大量の荷物を持った女性達を、指で指図していた。

そう、女性達を、である。

あんな重そうな荷物、女性に運ばせて、自分は手伝いもせず指図するだけで、悠々自適と座っているなんて…。

…それどころか。
 
「主様、紅茶をお淹れしました」

「あぁ、御苦労」

モデルでも出来そうなほどの美女が、彼の足元にかしずき。

彼の前に、そっと紅茶のティーカップを差し出した。

まるで下僕と王様だ。

更に。

「…ん?ルーシッドには淹れてやってないんですか、紅茶」

「はい、主様の分だけ…」

「この愚図」

折角紅茶を淹れて持ってきてくれた女性を、あろうことか酷い言葉で罵倒。

「彼は今日から、俺の大事なルームメイトですよ?俺と同じく、仕えるべき存在でしょう」

「申し訳ございません、主様」

「これは後で『お仕置き』ですね。夜になったら、俺の部屋に来るように」

「ありがとうございます」

何の話?

何の話をしていらっしゃるんですか?

夜にあなたの部屋で、何のお仕置き?

するとその女性は、くるりと俺の方を向き。

「ルーシッド様、今すぐ紅茶をお淹れします」

「え、いやそんな、紅茶なんて良いですよ」

「いえ、主様の命令ですので」

「…」

テキパキと、キッチンに向かう女性。

…を、一瞥もせずに、優雅に紅茶を啜るルームメイト。

…もう、呆気に取られるしかない。

「…あ、そうだルーシッドさん、ウォークインクローゼットは俺がもらうんで、宜しく」

「え?あ、はい…」

俺は別に、ウォークインクローゼットが必要なほど、衣装持ちではないので。

普通の、一人暮らし用の簡単なクローゼットがあればそれで事は足りる。

いや、そんなことより…。

「ご主人様、こちらの荷物は」

「あぁ、そっちの部屋に」

「ご主人様、こちらは」

「まぁ適当に片付けといてください」

「畏まりました」

ぞろぞろと、荷物の片付けに勤しむ大勢の女性達。

それどころか。

「ご主人様、お疲れではございませんか?マッサージでも…」

「そうですね。宜しく」

「ありがとうございます。では、失礼して…」

ルームメイトの足元にかしずき、彼の足を、まるで宝物でも扱うように丁寧にマッサージする女性まで。

そこまでしてもらっているのに、ルームメイトは興味なさそうに紅茶を啜るだけ。

…その姿は、まさに…ハーレムの王であった。
…ついていけない。

この人についていけるんだろうか、と不安に思いながらここに来たけど。

やっぱりついていけない。

すると。

ルームメイトが、呆然としている俺に振り向き。

「あ、ルーシッドさん」

「は、はいっ!?」

「俺の会員、まだ外に控えさせてるんで。荷物片付けるのに必要なら、使って良いですよ」

使う!?

若い女性を、そんなモノのように。

俺には、とても彼女達に自分の荷物を運ばせるなんてこと、出来ない。

そもそも、そんなに運ばせるほど、たくさん荷物持ってる訳じゃないし。

「い、いえ…。じ、自分で片付けます…」

「そうなんですか?変わってますねー」

あなたにだけは言われたくない。

と、思わず口に出さなかった自分を褒めたい。

こんなところで、この人と大乱闘なんて起こしたら。

この人の鎌の一振りで、マンションごと破壊されそう。

あまりの価値観の違いに、呆然としていると。

「ルーシッド様、お待たせしました」

「あ、はいっ」

先程「お仕置き」とやらを申し付けられた女性が、俺の分の紅茶を持ってきてくれた。

「あ、ありがとうございます…」

感謝の言葉を述べると、彼女は、

「いえ、主様のご命令ですから」

…ですよねー。

「エリュシア」

「はい」

ルームメイトが、その女性の名を呼んだ。

この人、エリュシアって言うんだ…。

「今日中に片付けを終わらせるように。他の会員にも言いつけておいてください」

「畏まりました」

エリュシアと呼ばれた女性は、まるで下僕のように、指示された通り他の女性達のもとに向かった。
 
…。

「…あ、ルーシッドさん」

「はい!?」

「今の下僕、メイド代わりにうちで使うので。用事があるなら、何でも言いつければ良いですよ」

「…」

…下僕呼ばわり。

駄目だ。

ルームシェア初日にして、完全についていけてない。

ルレイア・ティシェリー。

全身真っ黒な衣装を身に着け、胸に青い薔薇のブローチをつけた、ルティス帝国の生きた死神と呼ばれる男。

彼は常識の外にいる人物である。

そう聞いてはいたけれど、まさかここまでとは。

ルレイア・ティシェリー。

今更言わずもがな、ルティス帝国最大のマフィア、『青薔薇連合会』の幹部の一人であり。

恐ろしいほどのカリスマと、恐ろしいほどの戦闘能力、恐ろしいほどの…えぇと…エロスを蓄えている人物である。

また、彼は全身真っ黒な衣装(ゴスロリ?とかいうらしい…)を身に着け、更に真っ黒な特注の鎌を武器にしていることから、死神の異名を持っている。

彼の死神っぷりと来たら、本物の死神が迎えに来ても、あまりの恐ろしさに死神の方が逃げ出したとも噂されている。

あながち誇張ではないと思う。

そして、このルレイア・ティシェリーの、思わず惹き込まれるような魅力。

容姿が端麗なだけでなく、彼は、脅威的なまでのフェロモン…人呼んでルレイア・フェロモンを発している。

前世はハチだったのではないだろうか。

このフェロモンに惹かれ、また彼の言葉巧みな話術によって籠絡され、彼の虜になり。

彼を信奉するルレイア・ハーレムの会員は、最早人様には言えない数字を叩き出しているとか。

それも、女性だけでなく男性も。

俺でさえ、しばらく彼の顔を見つめていたら、そのあまりの強烈なルレイア・フェロモンに、惹き込まれてしまいそうになる。

迂闊に顔も見られないって、それどんな人だよ。

って言われるかもしれないが、こんな人なんだ。

…聞いたところによると、昔彼は帝国騎士官学校を卒業しており、帝国騎士団四番隊隊長を務めていた…つまり俺のOB…に当たるらしい。

悲しい事件があって、今の彼が出来上がったとか。

その辺りは、あまり詳しく話したくはないのだが…。

ともかく。

何が嬉しくて、こんな恐ろしさしか感じない人とルームシェアしなければならないのか。

当然この話が持ち上がったとき、俺は控えめながら、必死に抗議した。

「あの」ルレイア・ティシェリーと同居なんて、恐ろしくて出来ない、と。

しかし、俺の上司達は。

オルタンス殿は、「ルレイアと一つ屋根の下か…。羨ましいな」と逆に羨望の眼差しで見られ。

ルシェ殿は、「ルレイアのことを、くれぐれも宜しく頼む」と、何故か俺じゃなくてルレイア・ティシェリーのことを気にかけられ。

リーヴァ殿は、「…健闘を祈る」とだけ言って、申し訳無さそうにそそくさと逃げ去り。

アドルファス殿だけは、「あのルレイアと一緒だと大変だろうが、くれぐれも奴を怒らせないよう、気をつけろよ」と励ましの言葉をくれた。

アドルファス殿は良い人である。

そして。

そんなルレイア殿には、もっと恐ろしいところがある。

それが。

「おい、ルレイア。来たぞ」

「あっ、ルルシー!」

そう。

死神たるルレイア・ティシェリーの相棒。

ルルシー・エンタルーシアという存在である。