The previous night of the world revolution6~T.D.~

『脅して申し訳ないと思ってます。でも、それくらいのことをされてますよね。聞いたことないですよ。サークルメンバーに向かって、出ていけなんて』

『…』

『いくら俺が、あなた方にとって目の上の瘤だとしても。しかも、それなら堂々と皆の前で言えば良いのに、皆の見てないところで言うなんて、卑怯にも程がある』

そうだそうだ。

メガホン叩きまくりたい。

ルーシッド、お前言うときは言うんだな。

見直したよ。小指の爪の先くらい。

『『帝国の光』とやらに協力したいなら、どうぞ。月曜日に決議するんでしょう?ご存知の通り、俺は反対ですが。それでも、『ルティス帝国を考える会』の方針は、既に変わってしまったんですからね。言いたいことを、自由に言えるサークルだったはずなのに』

『…』

『あなたは俺が邪魔なんでしょうが、それなら俺だって言いたいことがあります。俺は詐欺に遭ったようなものです。こんなサークルじゃなかったのに。入学式の後、俺達を誘致していたときに言ってた言葉は、あれは何だったんですか』

うん、言ってたね。

全ての意見が尊重され、学年も性別も学部も関係なく、思ったことは何でも言える。

そんなサークルだったはずなのに。

今や『ルティス帝国を考える会』は、完全に『ルティス帝国を共産主義国家にする会』になっている。

そして、それ以外の発言は、異端視され。

あまつさえ、「反対意見を口にするなら、出ていけ」だからな。

そりゃ、ルーシッドが詐欺呼ばわりするのも分かる。

『言いたいことも言えないのに、何が『ルティス帝国を考える会』ですか。これじゃ、俺は詐欺に遭ったような…』

『…分かった、もうやめて』

『…やめてって何ですか。あなたが言い出したことでしょう』

『分かったから、もうやめてって!』

『…』

エリミアの、顔が見られないのが残念だ。

いや、見てたら多分、爆笑のあまり笑い死にしかねないところだったろうから。

見なくて正解だったのかもしれない。

でも、やっぱり見たかったなぁ。

年下(設定上)の学生に、完全論破されたときの、エリミアの顔。

そして、聞いてやりたい。

「たった今あなた、言い返すことも出来ず完全論破された訳ですが、今どんなお気持ちですか!?」って。

雑誌記者さながらに。

俺は、他人の泣きっ面を見たら、蜂を投げつけたくなるタイプだから。

お茶目で可愛いだろう?

…え?悪趣味?

黙れ。
…しばしの沈黙が続いた後。

先に口を開いたのは、エリミアの方だった。

『…あくまで君は、『ルティス帝国を考える会』を脱会するつもりはないんだね?』

『はい。そのつもりです』

当たり前だ。

そういう「お約束」だからな。

お前だけ抜けるとか、それは契約違反だ。

行き先が地獄であろうと、お前達帝国騎士団の方から持ちかけてきた話なんだから、逃げることは許されない。

ちゃんと付き合ってもらうぞ。最後までな。

『俺は『ルティス帝国を考える会』に入ってるんです。『帝国の光』じゃありません』

『…』

『あなたが忘れたとしても、俺はまだ、『ルティス帝国を考える会』の原則を忘れてはいませんから』

『…そう』

なかなかスパイスの効いた皮肉だが。

エリミアにはもう、言い返す気力も残っていないらしい。

完全論破されたんだからな。仕方ない。

『俺の居心地が悪くなるんじゃないかってことなら、特に心配して頂かなくて結構です。今に始まったことじゃありませんし』

追撃を入れていくスタイル。

嫌いじゃないよ。

『これ以上、強制的に脱会を迫るようなら、俺は本当に学生会に訴えます。良いですよね』

おぉ、それは良い脅しだ。

これで、少なくともエリミアの方から、これ以上ルーシッドに手出しは出来ない。

ルーシッドが自発的に「やめる」と言わない限り、『ルティス帝国を考える会』からは抜けられない。

そして、『青薔薇連合会』との約束のせいで、ルーシッドが自発的に「やめる」と言うことはない。

泥沼にご招待。

『…分かったよ』

エリミアも、そういう風に脅されたら、何も言い返せない。

ルーシッドが今日のことを学生会に訴えたら、『ルティス帝国を考える会』の存続が危ぶまれるからな。

『帝国の光』と組むどころじゃなくなる。

あくまで、『ルティス帝国を考える会』は、ルティス帝国総合大学の中に数あるサークルの一つでしかないのだ。

それを忘れるな。

『…それから、これだけは言わせてもらいます』

『…何?』

『会長も、他の会員の皆さんも、俺も…ルティス帝国の未来を想っているのは、同じです』

…。

『ただ、やり方や考え方が違うだけで。ルティス帝国の未来を守りたい、その気持ちは、皆一緒なんです。それだけは…忘れないでください』

『…そうだね、分かったよ』

…本当に分かったんだか、分かってないんだか。

顔が見られないから、エリミアの真意は分からないが。

とりあえず、これで「デート」は終わった。
小一時間後。

勇者ルーシッドが凱旋した。

「お帰りなさいルーシッド。あなたは勇者ですよ」

「え?はい?」

「とりあえず、さっきの実況中継録音してるんで、それをつまみにワインでも飲みましょう」

「あ、いや…。その、遠慮します…」

つれない奴め。

勇者格下げだな。

「それより、ルレイア殿」

それよりって何だよ。

「何ですか」

「俺、割と独断で勝手に発言しちゃいましたけど…。良かったですか?あれで…」

「うん。まぁ70点ってところですかね」

「70点…。−30点の要素は?」

それはもう、あれだよ。決まってるだろ。

「まず、もう少し毒舌砲発射しても良かったという点で、−10。次、女に奢らせたという点で−10、あとは童貞という点で−10ですね」

「…童貞関係あります?それ…」

「は?」

今何か言った?

俺の完璧なる採点基準に、何か不満でも?

「え、あ、いや…。あの…それと、帰り際、俺伝票持っていって払ったので、奢ってもらってません。むしろ奢ってます」

ほう。

お前も意外とやるじゃないか。

「じゃあ80点ですね」

「…ありがとうございます」

俺の超優しい採点基準を持ってしても、まだ80点とは。

ルーシッドもまだまだだな。
とはいえ。

今回は、よくやったと褒めてやっても良い。

ルーシッドにしては上出来だ。

「ちょっと、頭に血が上ってしまって…つい大人気のないことを言ってしまったとはんせ、」

「とんでもない!俺だったら、あと8割増くらいで言い返してましたよ」

「…」

何故黙る?

「しかしまぁ、勝手なもんですね。『どんな意見でも尊重される』とか言っときながら、反対意見を口にしたら『出ていけ』とは」

「はい…。『ルティス帝国を考える会』はもう、完全に共産主義組織になってしまったようです」

「まぁ、最初からそんなようなものでしたけどね」

ルーシッドへの風当たりが強かったのは、最初からだ。

とはいえ最初の頃は、ルーシッドの意見もちゃんと聞いてもらえていた。

皆に反対する意見を口にしても、「出ていけ」とまでは言われなかった。

それが今や、この体たらく。

ルーシッドが言った通り、詐欺みたいなものだ。

「…どうしましょう、ルレイア殿」

「あん?」

「あの場では保留にしておきましまが、今回の件は、学生会に報告すれば、サークルを解散…まではさせられなくても、何らかの制裁は与えられると思います」

「あー…」

そうだろうな。

ルーシッドが、学生会に「『ルティス帝国を考える会』のエリミア会長に、脱会を迫られた」と、大袈裟に訴えれば。

学生会は動くだろう。恐らく、何らかの制裁は与えられる。

サークル解散命令は出ないにしても…活動制限くらいは与えられるだろう。

一ヶ月活動停止とか、エリミア会長の解任とか。

ついでに、『ルティス帝国を考える会』が、勝手に外部の組織…『帝国の光』なんていう、怪しげな組織と繋がろうとしていることも、密告してやれば良い。

上手く行けば、学生会が『ルティス帝国を考える会』を危険なサークルだと判断し、監視対象にしてくれるかも。

そうすれば、エリミア率いる、ルティス帝国総合大学の共産主義分子は、さぞや動きづらくなるだろう。

幸いこちらには、エリミアに脱会を迫られたときの音声がある訳だし。

証拠はある。

「『ルティス帝国を考える会』を潰すには、良い機会かもしれません。ここを潰してしまえば、我々も『帝国の光』や、『赤き星』の監視に加われます」

「…悪くない案だとは思いますが」

ようやく、自称善良なサークルが、ボロを出してくれたんだからな。

思いっきりそのボロを突いて、一気にサークルそのものを瓦解させてしまうのも…。

…悪くはない。

…だが。

「…やめておいた方が良いでしょうね」

「…そうですか」

理由は二つ。

一つ目は、この一件だけで『ルティス帝国を考える会』を潰すには、少々弱いという点だ。
エリミア自身も、そう言っていたように。

学内のサークルが、外部の組織と繋がること自体は、別に規則違反に触れたりはしない。

ルティス帝国総合大学にある、他のサークルだって…例えばボランティアサークルなんて、市のボランティアクラブと提携しているし。

他大学のサークルと共同で活動するなんてことは、サークル同士ではよくあること。

『帝国の光』との提携も、その一環と言われたら、学生会も言い返せないだろう。

で、今回、エリミアが個人的にルーシッドに向かって、退会を迫った件だが。

これは確かに完全にアウトだが、それでも、サークル全体を攻撃するには、弱い。

何らかの制裁は加えられるだろうが、精々一ヶ月ほど活動停止処分が良いところ。

最悪、エリミア自身が会長を解任されるだけで、ケリをつけられるだろう。

『ルティス帝国を考える会』というサークルそのものは、存続するだろう。

それじゃあ意味がない。

例えエリミアを解任したところで、第二、第三のエリミアは、サークル内にいくらでもいる。

むしろ、エリミアを告発したことで、ルーシッドは余計に、サークル内でヘイトを買うだけだろう。

それに、証拠となる音声データだが。

そこには、ルーシッドが「今回は目を瞑るが、次は学生会に報告する」と警告をしている音声が入っている。

一度、「今回は目を瞑る」と言ったのに、それを無視して学生会にチクったら。

学生会としても、印象が悪いだろう。

学生会に報告しても、得られるメリットは少ない。

と言うか、デメリットしかない。

どれも、『ルティス帝国を考える会』そのものを解散させるには、弱い。

エリミアがもっと過激な発言をしてくれていれば、それを証拠に出来たんだがな。

「さすがに証拠がこれだけじゃ、解散までは至らないでしょう」

「…そうですか」

それに学生会は、『ルティス帝国を考える会』が「個々人の意見を尊重する」とかいう、

今となっては失笑モノの大原則があったことを、知らないのだ。

いくらルーシッドが「俺、会長に騙されたんですよ!詐欺に遭ったんですよ!」と訴えたところで。

学生会としては、「はぁ、そうですか」としか言えないだろう。

よって、この証拠だけで、『ルティス帝国を考える会』を瓦解させるのは、非常に困難。

しかも、失敗した後のデメリットが大きいので、却下。

そして、二つ目の理由は。

「…そもそも、今となっては、サークルそのものを解散させたところで、何の意味もないですよ」

「…」

ルーシッドも、薄々分かっていたのだろう。

何も言わなかった。
問題は、『ルティス帝国を考える会』というサークルそのものでも、

エリミア・フランクッシュという会長の存在でもない。

『ルティス帝国を考える会』に所属するメンバー達が、どっぷりと共産主義思想に染まってしまっている。

これが問題なのだ。

サークルの名前なんてどうでも良いし、何ならサークルなんて必要ない。

志を同じくする者同士なら、例え大学側に認知されたサークルがなくても、勝手に集まるだろう。

ましてや、今『ルティス帝国を考える会』は、『帝国の光』とも接触がある。

「『ルティス帝国を考える会』がなくなったら、彼らは改めて、『帝国の光』に入るでしょう。彼らにとって、入ってる組織の名前なんて、どうでも良いんですよ」

そこが、共産主義思想の組織であれば。

『ルティス帝国を考える会』だろうと、『帝国の光』だろうと『赤き星』だろうと、何でも良い。

最早、ルティス帝国総合大学の学生だけの問題ではなくなっているのだ。

学生一人一人が、共産主義思想に染まっているのだから。

『ルティス帝国を考える会』がなくなれば、別の組織に移動すれば良いだけ。

とはいえ、ルーシッドの言う通り、確かに『ルティス帝国を考える会』がなくなれば。

俺達が、ルティス帝国総合大学に居続ける理由もなくなる。

すぐにでも退学して、ルリシヤがいる『帝国の光』なり、シュノさんがいる私立ローゼリア学園大学なり、別の共産主義組織を監視することが出来るので。

『ルティス帝国を考える会』がなくなってくれるなら、それはそれでアリなのだがな。

でも残念ながら、今それをすることは叶わない。

だったら、むしろ。

「現状は、『ルティス帝国を考える会』のメンバーとして、彼らの動向を見張るのが妥当でしょう」

「…やはり、そうですか」

「まぁ、そう逸る(はやる)ことはありませんよ。『ルティス帝国を考える会』が『帝国の光』と繋がってくれるなら、間接的に『帝国の光』の動向も見張ることにもなります」

離れていた二つの組織の間に、パイプが出来る訳だからな。

そう思えば、悪い状況ではない。

それに。

「個人的には、あなたがエリミアに毒舌ぶちまけたことで、超スッキリしてますからね。やっぱり乾杯しません?」

「え、あ、いやそれは…間に合ってます」

なんだ、つまんない奴だよ。

「じゃあ代わりに、景気づけと行きましょう」

「景気づけ…?」

「俺のお古の女をニ、三匹貸すので、思う存分欲望を発散…」

「それは結構です、本当。大丈夫なので、はい」

なんだ、やっぱりつまらない奴。

「…仕方ない。じゃああなたの分も、俺が楽しんできますね」

「…どうぞ…」

今夜は、気分良く充実した時間を送れそうだ。
と、軽く考えていた翌々日。

件の月曜日。

案の定ルーシッドは反対したが、その反対に反対され。

『ルティス帝国を考える会』は、正式に『帝国の光』と提携することを決定した。

そして、同時に。

見慣れない人物が、『ルティス帝国を考える会』にやって来て。

その人物は、俺達の前に募金箱を差し出して言った。

「ルティス帝国の未来の為に、皆さんの融資をお願いします」

朗らかで優しそうな顔をして、こいつは何を言ってるんだ、と思った。
―――――…ルレイア先輩達とシュノ先輩が、スパイ活動に尽力している頃。

同じくスパイ活動に忙しい俺の所属する、『帝国の光』は。

かつてないほどに、目覚ましい大躍進を始めていた。






ルルシー先輩からの情報によると。

シュノ先輩は、学生会に入って『赤き星』と真っ向から立ち向かい。

ルレイア先輩とは、この間、運命的な邂逅を果たした。

着ている服がいつもの死神スタイルではないので、フェロモンの調子はあまり良くないようだったが。

ひとまず、顔を見られて良かった。

と、個人的には喜ばしい邂逅だったし、恐らくルレイア先輩にとっても、思いがけない吉事だったのだろうが。

実は、スパイとしての俺にとっては、あまり良いことではない。

何故なら。

あんな地方の講演会で、受付のボランティア仕事を任されている時点で。

俺は、未だにヒイラ・ディートハットの信頼を得ていないという証だからである。

そして、今も。