獣道から林道へ出る少し手前の洞穴が、秘密基地だった。昔は防空壕だったのかもしれない。
 曾祖母のマツエに、怪談話でもするようなおどろおどろしい口調で「古い穴はガスがでているから、奥へいっちゃいけないよ」と小さな時から言い聞かせられていた。
 子供心にもとても怖いことなのだと思わされ、秘密基地の奥にまで入ったことは一度もなかった。
 入り口1メートルという丸見えの状況の秘密基地だったけど、穴の入り口を蔦などで囲い、すぐに外からは見えないように二人で頑張って作りあげた。


 基地の前に立つと次々と色々な思い出が蘇る。
 奏汰は、ハアハア、と肩で息を繰り返し、上がった呼吸と、急いた気持ちを落ち着けようとする。
 瞳だけで素早く奏絵の姿を探る。

 「カナ…」
 奏汰は小さな声で、呼びかける。
 しかし返ってくる音は、人の声などは微塵もなく、虫の声と自分の草を踏みにじる音だけだった。
 「カナ…」
 無意味とわかっていても、再び呼ぶ。そして秘密基地に伸びた蔦を避けて中を覗き込んだ。