自転車にチェーンを掛け、アパートの外階段を上った。
 軽量鉄筋のアパートは、1段上がるごとにギシギシ音を立てる。

 私の部屋は2階の4室の右から2番目。右隣は大学生カップルで、左隣は同い年の女の子だったから、気楽に生活できるのが良かった。

 鍵を開けながら、
「古くてびっくりしますよね」
 と首を竦めると、先輩はキョロキョロ見回し
「うちの実家より遥かに新しいけど……」
「先輩んち、古いんですか?」
「うん、1世紀くらい過ぎてんじゃないかな…だからこういう集合住宅憧れた」
「へー、って。先輩新しいマンション住んでんじゃないですか!」
「あーあれは親戚の持ち物だからさ。格安というか、監視つきなわけ」
「それでも最新なんて羨ましすぎです」
「住んだら変わらない気がするけど」


 そんな会話をしながら私の部屋に入った。玄関入った部屋がDKで、シンクは玄関の真隣。数歩で唯一の居室に入れてしまう狭さ。

「有り合わせだけど何か作りますね。座ってテレビでも見てて下さい。」
「テレビ嫌いだから見ない。」
 先輩はそういって隣に立った。
「何作るの?手伝うよ」
「クリームシチューとサラダかな」
「じゃ皮剥いてあげる」

 先輩は包丁で人参やジャガイモの皮を器用に剥き出した。

 ―実は料理が得意なのかも…
 観察しつつ、自分の包丁さばきが恥ずかしくなってしまう。



 40分後、作った2品に冷凍していたパンを沿えて、やっと晩御飯になった。時計は9時を回っていた。

 冬はこたつになる、白い座卓を挟んで向かい合った。

 蛍光灯の下、改めて見ると、先輩の瞳はグレーがかっていて、髪も肌も色素が薄かった。

 たわいない会話をし、食事をし、後片付けをして、私の小さなシングルベッドで眠りに就いた。
 翌日の日曜もなんとなく一緒に過ごし、月曜の朝を迎えた。


 7時に二人で目を覚まし、簡単にカップスープとベーグルだけの朝食をとったあと、先輩は

「ごちそうさま。おじゃましました。」

 とだけ言い家に帰って行った。

 特に次の約束などなかった。


 少し気になったが、1限目から必修科目があり、慌ただしく出かける準備をこなし、家を出た。