私がドライヤーで髪を乾かす横に、先輩は片膝を立てて座っり、煙草を吸っていた。
 スウェットのズボンを履き、上半身は裸のままでドキリとした。
 濡れた髪を掻き上げる度、首から下げた銀の片羽根のネックレスが揺れる。
 たったそれだけの仕草も色っぽくて、つい目が離せない。

 私の視線に気がつき、
「ごめん、煙草苦手?」
 と先輩は、ガラステーブルに置かれた灰皿に煙草を押し付けた。

「そうじゃないです。……でも私の近くの人で吸っている人っていないから新鮮かも。」
「ははっ、そうなんだ。こんなもん身体に悪いし、まずいし、吸わない方がいいとは思うよ。」
「まずいのに吸うの?」
「そ、落ち着く。」
「そういうもんなんですね。」
「あとは口寂しいから…」

 ニンマリ笑い、先輩は私にキスをした。

 煙草の味なのか、苦みがある感じ。まずかった。
 思わず顔をしかめてしまう。

「キスもまずいでしょ?口寂しくならないように手伝ってよ」
 そういってまた唇を塞がれた。
 少し抵抗しようと横に顔を逸らすつもりが、バランスを崩して後ろに倒れると、先輩は唇をくっつけたまま上に被さってきた。

 ―ま、また?

 ギュッと目を閉じると同時にぐううー、とお腹がなってしまった。

 先輩は一瞬驚いた顔をしてから、プーっと吹き出し
「あははは、すごい音。やべウケた。もう6時だしお腹空いたよね、何か食いに行く?」
 と私を引っ張り起こした。
「は、」
はい―って返事をしようとしたけど、大事なことを思い出した。
 昨夜は家の鍵と携帯しか持って出て来なかったから、お財布ないし、よく考えたら今スッピン。
 こんなじゃ外でご飯なんて出来ない。

「ご飯食べに行くのヤダ?」
「…え」
 正直に理由を言うのが恥ずかしくて俯いた。
「一緒に外行くの……嫌かな。」
ちょっと躊躇っただけで、先輩が微妙にマイナスな事を言うから
「そうじゃないんです。私スッピンだし、お財布ないし、適当な服しかないし、外で食べられないんです! 」
と叫んでしまった。

「ええ?!そんなん大丈夫だよ。」
先輩は首を傾げる。

「とにかくお店は無理です。」
「じゃ、うち…て何もないよ。」