「おっおはようございます……。」

 寝そべったまま、ニコリ笑う三浦先輩が笑っているけれど、目が合わせられない。

「羽澄ちゃんさ、お酒弱いね。昨日のこと覚えてる?」
 膝を抱えたままの私の手を握り、覗き込んできた。

 いいえ、というべきか。素直にいうべきか。
 少し悩んでから
「…割と覚えてます。」
 言ってからものすごく恥ずかしくなった。
「良かった忘れられなくて。」
 先輩は満面の笑みを浮かべ、握った手の甲に「チュッ」っと音を経てキスをされた。
 そのまま引っ張られ、横に寝そべる形になった。
 今更だけど、握られてない方の腕で胸元を隠した。

「なんで隠すの?」
 大真面目な顔で覗き込んでくる。
「え……恥ずかしい…です。」
「そう?綺麗なのに」
「えっ!?」
「見たい。」
「え!!?ダ、ダメです」
 隠した腕に目いっぱい力をいれたのに、手首をつかまれ簡単に剥がされた。そして私の両腕を布団に押し付け、上に覆い被さると
「羽澄ちゃん、どれくらい覚えてる?オレは覚えてるよ。全部。羽澄ちゃんも全部覚えてて。」
 そう言って、私の首筋に顔を埋めた。


 なんていうか、バカらしいくらい甘ったるいことを何時間も続けた。

 土曜日で二人とも学校もバイトもたまたま無かったから。

 先輩の部屋にはお酒しか食べるものも飲むものも無かったし。

 それより、家具もガラスのローテブル一個のみの殺風景な部屋で、テレビすら置いてなくて、他にすることがなかった。

 音楽すら掛けるものはない。
 聞こえているのはお互いの吐息だけって、なんて官能的でロマンチックなんだろうか。

 カーテンすら開けずに過ごしてたら、隙間の光がもう夕日で、部屋の中は薄暗くてそろそろお互いの顔すら見えにくくなっていた。

 沢山のキスをしながら、一緒にシャワーに打たれてる時
「ちゃんと忘れない??」
 なんて途切れ途切れ聞かれたから、首にしがみついて赤面して頷くしかなかった。

 ―こんなになって覚えてないはずないよ。