「先輩、何ですかこのゴミ!」
 暗がりの窓辺で羽澄が悲鳴をあげた。
「なにが?」
 部屋に顔を突っ込み、電気のスイッチを入れると、窓辺で腕組し呆れ顔の羽澄が現れた。
「何本飲んでんですか!!」
 羽澄の足元の散らばる缶の数を数えた。
「1、2、3、……7本?」

 3本じゃなかった。

「先輩急性アルコール中毒にならなくて良かったですね。」
 羽澄はカーテンを閉めてから、缶を拾い集め、肩をすくめた。
「そんなのゴミ箱に突っ込んで、座って座って。」
 後ずさりでキッチンに向かう。
「遠慮なく」
 座った羽澄の後ろはカーテンが引かれ、外が見えなかった。満月が隠れていた。


 そして今度は冷蔵庫の前でオレは悲鳴をあげた。
「うわああ。」
「どうしたんですか?」
「いやいやいや、大丈夫なんでも無い」

 ―やっべー。うち酒しかねー。水って訳にもいかないし。

 わざとではなく、仕方なく缶酎ハイ2本を持ち、羽澄の隣に座って、1本差し出した。
「なんですかコレ?」
「うち食べ物も飲み物もコレしかなかった。」
「またお酒……。」
「せっかくだし飲もう?」
 プルトップを開け、羽澄の手に持たせた。自分の分も開ける。
「乾杯!」と缶をぶつけ、グビっと一気に3分の1くらい飲んだ。そんなオレを見ていた羽澄もググっと何口か飲み
「甘い…」
 と呟いた。

「甘いの苦手?」
「う…ううん。あんまり飲んだことないから、美味しいなあって」
「それは良かった。」

 何を話したら良いか迷って、握った缶をみつめたら
「先輩。ご馳走様でしたー」
 羽澄がそう言って寄り添ってきた。
「え?もう飲んだの?」
「はい」
 顔を立てにふって返事をした反動で、羽澄は頭をオレの左肩にもたげてきた。
「だ、大丈夫?」
 こんなのたいした事無いのに、
「ふふふ、もっと飲みたいな」
 って上目遣いで見つめられたら、

 もうあっという間に限界だった。