やっとの思いでコンビニにたどり着くと、村澤羽澄はもう来ていた。
 自動ドアのすぐ傍に自転車を止めて、携帯画面を見つめていた。画面の明かりで浮かびあがった顔は、昼間学校で会ったときとは違いノーメイクに近かった。
 幼さの残るその顔のほうが、かわいいなと思ってしまった。

 5メートルほど離れた位置で、立ち尽くすオレに気がついた羽澄は
「こんばんは」
 と笑いかけたあと、急に渋い顔をし
「三浦先輩、顔が真っ青ですよ。大丈夫ですか?」
 と真面目に言った。

「いや、うん。まあ。こんな夜中にごめんね。ありがとう。」
 なんでかはぐらかしてお礼をいうオレに、ツカツカツカと近寄ると
「大丈夫そうじゃないですよ。ものすごい具合悪そう。自転車乗ってください!送ります。」
「えっ…う、いやいや大丈夫」
 一瞬押し切られそうになたけれど、首と手を思いっきり振り
「スイマセン。大丈夫。飲みすぎて倒れてただけだから。ほんと大丈夫。むしろ自転車の揺れは吐くというか。ありがとう。」
 情けない理由を述べ、丁重に断った。

「お酒……どちらにしても、具合悪いんだし、歩いて送ります。」
「え?」
「具合悪い人を放って帰ったら、後味悪いですよ。ハンドルそっち側持ってください。」
「はい。」

 つい素直に従って、オレと羽澄は自転車を間に挟んで歩き出した。

 12時をとうに回って、町は寝静まりつつあった。
 曲がり角を訪ねる羽澄の声だけが夜風に乗って響いた。

 大きな月のまばゆい光が、二人の影を作っていた。