「てことで、私もう抜けるわ」
 明日香は机の上の物をかばんにしまうと、椅子からお尻をスライドさせ降りると、しゃがんだまま後ろの扉に向かう。

『羽澄~次の代返お願い!!それから先輩に甘い顔しないのよ!!』
 と口をパクパクさせ、ドアから出て行った。

 開けるのはそっと出来たのに、バタンと大きな音で閉まってしまったから、教卓の教授も気がついて「今出てったのは誰かなー?また山野さんかな」とマイクで言うから、また笑いが起き、残された私は恥ずかしい思いをした。

 振り返る顔の中に、窓際前から2番目に三浦先輩の笑う顔を見つけた。
 ふいに視線が合ってしまい、うつむいた。

 
 程なくして、終了のベルがなり「じゃ、出欠表書いてここ置いて帰ってねー」と教授は言い残すと、助手の女の子を残し、さっさと退出してしまった。
 明日香の分の出欠表も書き、教卓の上の箱に入れていると

「村澤さん。」
 と呼びかけられた。呼んだ主は、勿論『三浦先輩』だとわかっていた。
 振り返ると、やっぱり微笑んで立っていたのは三浦先輩だった。

「ノート、今日の分まで書いてますよ、どうぞ」
 そう差し出すと、先輩は躊躇いがちに手を伸ばしてきた。
 なぜ、先輩がそうしたのか私にはわからなかった。
「どうぞ。たぶん読めますよ。」
 念を押して、ノートを先輩の手にノートを押し付けた。
 先輩はそっとノートにふれると、私の目を数秒ジッと見つめてから、口を開いた。

「ごめん。さっき。オレ……。なれなれしかったよね。」
「え……?!」
 先輩からそんな言葉が出ると思ってなかったら、返事が出ない。
「急に名前でチャン付けとかしたから、引いただろうなって、反省して。本当にごめん。しかも図々しくノートまで借りていいのか……。」
 先輩が視線をノートに落とした。