二人で後ろの扉から教室に一応駆け込むと、予想に反して教卓にフランス語教授のおじいちゃんが到着していた。

「「げっ…」」
 明日香と同時に叫んでしまった。
 耳が遠そうに見えておじいちゃんはシッカリ聞こえていて、
「ほら、そこの二人。プロダクト1の山野くんとキミ。席に着きなさいよ~。」
 とマイクを使い注意された。

 ―明日香…週1しか会わない教授にまで覚えられてるし。

 教室に居る100人近い人の視線と、クスクスという笑い声に私は顔がユデダコみたいになっていくのがわかって、ますます恥ずかしかった。
 そんな私を他所に明日香は「はぁーい、すみませーん」と言って、空いてる一番後ろの席に座った。私も慌てて、明日香の横に腰掛けた。

 教科書や筆箱を出しながら
「あのじいさん侮れないね。」
 と明日香が呟くから、プーっと噴出してしまった。
 二人で顔を見合わせて、シーっと、口の前でひとさし指を立てた。

 やっぱり授業は退屈で、10分後に明日香は肘をついて眠ってしまった。
 貸す約束したからって訳ではないけれど、私は久々に色ペンまで使ってしっかりノートを取った。
 
 ―なにやってんだか。
 こっそり自分で突っ込みを入れてみたり。

 授業終了間際、ブルブルブル―と机に出された明日香の携帯が震えた。画面にはメール受信が表示されたので、明日香を揺すって起こす。

「んん?羽澄なぁに?」
 目をパチパチさせ、口の端を指でこすりながら私を見つめる。
「明日香の携帯メール来てるよ」
「おー。さんきゅー。」
 パカっと携帯を開き、「んーーーー」と唸り明日香が画面をにらんでいた。

「明日香どうした?」
「ヤバイ。あと1時間半後に撮影だった。担当さんから確認メール来た。」
「ええっ、どこ?間に合うの?」
「場所は渋谷だから1時間掛からないけど…服どうしようかな?今日予備持ってないんだよね」

 明日香は雑誌の読者モデルを高校の時から続けていた。
 実は周りとの最初の頃の溝は、ちょっぴり明日香が有名人だったからだ。
 知らなかったのは私ばかりだったのかも。