―ま、漫才!!?

「奏汰先輩ひどーい!」
 明日香が三浦先輩の肩を掴んで揺らした。
「あははははは。だってさ。」
「そんなこと言うと、羽澄のノート貨しませんよ。」
「ウソ、ウソ。ごめん、それまずいって。」
「どうしようかなぁ?ねー羽澄。」
 明日香が振り返った。
「うん、どうしよー。」
 って私も笑ってみたけど、三浦先輩の肩を掴んだままの、明日香の手から目が離せなかった。ベビーピンクの長い爪。ラインストーンや小さな小さなリボンが付いた、可愛い女の子っぽい爪が目に焼きついた。

「ほんと、ごめんって。授業終わったら貸してください!!村澤さん!羽澄ちゃん!!」
 三浦先輩は私にまた拝んだ。

 ―えっ
 
 三浦先輩の上目使いと、急に『羽澄ちゃん』とよばれ、ドキっとしてしまった。
 でも、サアーっと何かがひいた。
 私はすぐに女の子を『ちゃん付け』する男は苦手だった。

 ちょうど、ジリリリリリ―と、予鈴がなった。

 明日香もパッと肩から手を離し
「じゃ、奏汰先輩終わったら羽澄が貸してあげますね!!」
 とやっぱり勝手に約束をし、私の腕をグイグイ引っ張って歩きだした。

「明日香どこいくの?予鈴なったよ。」
「お手洗い~。」
「5分しかないよートイレ遠いのに。」
「いいの!!フランスおじいちゃんは10分は来ないし!!」
「そうだけど……」

 振り返り三浦先輩に会釈をした。先輩も軽く手を上げた。

 
 教室を出ると、早足で腕を組んだまま明日香が私の顔をジッと見て言った。
「羽澄。あの先輩ダメだわ。」