助けを求めるように、明日香に目を泳がすと

「もぅ、羽澄ボーっとしすぎだよ。今自己紹介してたの。」
 とイチゴ色の可愛い唇を私に向かって尖らせた。

「あはは、ごめん。唐突だったね。オレはプロダクトデザイン2年の三浦奏汰です。」
 青年、三浦奏汰は右手を差し出しながら、私に歩み寄った。
 慌てて私も右手を差し出した。
「あっ、プロダクトデザイン1年の村澤羽澄です。」
「二人ともオレの後輩なんだね、よろしく。」
 ギュっと握られた右手がとてもヒンヤリしていた。

 50センチ先の斜め上に見える『三浦先輩』の顔は笑っていたけど、あのグレーがかった瞳がこれっぽっちも笑ってなく見えた。そしてとても悲しんでいるように見えた。

 手を離すと三浦先輩は、元居た机に戻り
「偉そうに、先輩って言っちゃってるけど。実はフランス語Ⅰを去年履修登録すんの忘れちゃってさー、この授業はクラスメートってことでよろしく。」
 真新しいフランス語の教科書を掲げた。
「えー奏汰先輩、クラスメイト!やったあ。宜しくお願いしまーす。」
 明日香がピョンピョンはねた。

 ―早速、奏汰先輩って名前で呼んでる。一緒に授業受けてたんだ……あれ?

「三浦先輩……今まで授業いました?」
 疑問がそのまま口をついた。
 私の言葉に三浦先輩は、しまったという表情を作り
「あ!わかっちゃった?実は今日が初参加です。スイマセン!さすがにテスト近いし参加しようかなって……度々情けないけど、ノート見せて貰えると助かる!!」
 と私たちに拝んだ。

 ―うわっ、サボってたの。

 私は思わず顔を歪めたのに、明日香はチャンス!とばかりに
「いいですよー!奏汰先輩!!ノートくらい全然OKです!」
 早速肩に掛けていたバックの中から、ルーズリーフフォルダーを取り出した。
 フォルダーをパラパラとめくり、「ああっ!」と小さく悲鳴を漏らした。
 そして私に顔を寄せ、コソコソ―と、喋りかけてきた。
 でも言葉を聞く前から、想像はついたけど。