朝から雲ひとつない晴天。もう1週間近く雨粒一つすらの舞っていないせいか、本当に蒸し暑かった。
 気温も正午には軽く40度に手が届きそうで、光化学スモッグ発令の注意報が、役所のスピーカーから流れてきた。

 早めに昼食を済ませてしまう我が家では、曾祖母のマツエが居間のマッサージチェアで船を漕ぎ、祖母の加代子は、台所でガチャンガチャン、と音を立てながら昼食の後片付けをし、祖父の勝也は軽トラで農協へ出かけて行った。 
 
 この家の高校一年生の息子、三浦奏汰(みうらそうた)は、昼食後のまどろみを居間の畳に寝転び満喫していた。
 普段と変わらない夏休みのひとコマを過ごしていた。

 庭では蝉が、ミンミンミン―と世話しなく鳴き続け、窓辺で鉄製の風鈴がささやかな風に揺らされ、チリリン―と澄んだ音を奏でた。
 奏汰は縁側に向かって体を投げ出し、目を閉じた。
 
 ふと、何かが頭の隅に引っかかった。

 ―何かいつもと違う。
 
 三浦家の日中は、伯父の貴彦は役所務めで日中は居ないし、伯母の佐緒里も郵便局に勤めているので留守なのはいつものこと。

 何が違うのか、すぐに思い立つことが出来ず、食後の心地よいまどろみに意識は呑まれていった。