「莉依?大丈夫か?」

いつの間にか翔ちゃんが部屋に戻ってきていた。

「ん…大丈夫…。」

「じゃないだろ。そんな顔して…。」

こんなになっても、翔ちゃんは優しいね。
私の頬を触りながら、止まることのない涙をぬぐってくれる。

止められない涙に戸惑うと、急に翔ちゃんの匂いに包まれた。

「…死ぬなんて考えるなよ。俺にはお前が必要なんだ。」

そう言って抱き締められた。

今はその事にも何も感じない。

幼い頃から翔ちゃんに守られて過ごしているのは自覚していた。

でもそれは、翔ちゃんのお父さんの友人が、姫野功希で、その娘だから守ってくれているだけ。

決して、"私"だからではない。

「同情で言ってるなら、私を捨てて。」

私は力無く言う。

それでも、翔ちゃんは抱き締める腕の力を弱めなかった。

「同情なんかじゃねぇ。本当にお前が大切なんだ。お前の側に居させてくれ。」

きっと、私を立ち直させるために言ったんだろう。

昔から世話焼きの翔ちゃん。

私はつい甘えてしまっていた。

今回も…、翔ちゃんの言葉に甘えないと、私が私でいられなくなる…。

翔ちゃんが私の側にいてくれるなら、私でいられる。

でも、それは虚しいだけ。

それでも私は…。

「側に…いて…。」

その言葉の枷を翔ちゃんにつけてしまった。

重く、硬い足枷を…。