「鉄っちゃん!!」

私は店に入るなり、勢い良く飛び付いた。

「あらぁ。姫ちゃん!今日は張り切っていくわよ。」

私の勢いに驚くことなく受け止めてくれたのはCoCorateの店長。

永光 鉄治。

翔ちゃんのお父さん、樹さんの友人。

美容の腕前は世界一。

樹さんと共に、鬼龍を引っ張っていた人だと聞くから驚きだ。

「姫ちゃんを変身させて、翔樹に惚れさせないと!う~ん。腕がなるわぁ!」

クネクネしながら、ハサミやらコテやらの準備を始めた鉄ちゃん。

まぁ、オネェ系なのがたまに傷…。

でも鉄ちゃんは、私のお父さんの友人でもある。
私のことを大切にしてくれる人。

葬儀のときにも、忙しい中、駆けつけてくれて側にいてくれた。

お父さん?お母さん?的存在。
なのかな。

鉄ちゃんは、張り切って私にメイクをしていく。
その手さばきは真似できないほど。

「ふふふ、できたわよ。翔樹の心をワシ掴みメイク~!」

ジャジャーンと言わんばかりに、手を広げて私に言った。

猫目にブラウンのアイシャドウ。

頬はオレンジのチーク。

髪はハーフあっぷ。

「誰?これ…。」

私がビックリしていると、

「やっぱり元がいいから、化粧ばえするわぁ‼」

鉄ちゃんがさらに。

「これで翔樹もイチコロネ!反応が楽しみよ‼」
「翔ちゃん、私のことを妹としか思ってないから…。」

(本当に、鈍感なんだから困っちゃうわぁ…)

と、莉依に向けて鉄ちゃんが心で思ったのである。

「さて、リップグロスを塗って。OK!翔樹~できたわよ‼」

すると、目の前のドアが開いた。


扉を開けた翔ちゃんは、目を見開き、固まってしまった。

「し…翔ちゃん、どう?」

「あ…あぁ。」

「もう翔樹ったら、みとれてたって認めなさいよ‼」

「バっ…んなことねーよ!」

「照れてる照れてる‼」

2人が私をはさみ、盛り上がってる…。

えと、喜んでいいのか?

「鉄ちゃん!ありがとう!!」

「いいえ、いつでもきてね! 」

「忙しいところ申し訳ありません。」

「いいえ、翔樹と姫ちゃんのためだもの。」

お代は要らないわよー!!と手をふりながら私たちを見送った。


「さぁ、これから川城組に行くぞ。」

「緊張してきたぁ…。」

「フッ、そんなかしこまることないぞ。川城組にはお堅い連中は居ないからなぁ。」

「でも、緊張するよ。」

そんな会話をしながら、車に乗ること20分。

「着いたぞ。」

着いてしまった。

私の緊張ゲージは、マックスを振りきっていた。