二十二、







 「お参りって。紅月、何を言っている?」
 

 紅月は幼い頃から矢鏡神社を参拝していてくれた。だからこそ、矢鏡の存在は消える事なく神として存在していられる。
 それについては感謝している。だが、それが蛇神との契約にどう関係しているのか。それがさっぱりわからなかった。紅月は咳き込みながらも、何とか矢鏡の言葉に答えようとする。苦しそうな彼女の体を支えながら紅月を見つめるが、矢鏡は混乱していた。
 紅月の話の内容が全く理解出来ないのだ。


 「矢鏡様をずっとお慕いしたいと思っていました。私を助けてくださり、神様となって村を守ってくださってからも。そして、祟り神と言われるようになってからも。私だけでも、あなた様に感謝の気持ちを伝えたかった」
 「………助けたって。ま、まさか………」
 「…………」


 紅月は声を止めた。
 矢鏡にそれを伝えるのを直前になっても迷っているのだろう。
 けれど、矢鏡だったそこまで鈍感ではない。彼女の言葉の続きを何となくだが予想出来た。

 そんな事があっていいのか?
 紅月の嘘は、とてつもなく大きくて、矢鏡の想像を遥かに超えていた。
 けれど、紅月は今までどんな気持ちだった?どうして、こんな辛い契約を結んだ?

 何故?どうして?

 その疑問が次々に浮かんで、矢鏡の頭を支配してくる。
 矢鏡の腕の中にいる細い体で、紅月はどんなに辛い生き方をしてきたのか。

 彼女が話す真実を早く聞かなければいけない。けれど、それの嘘の大きさに、矢鏡は身が震える思いだった。
 とても重くて、悲しすぎる事実を。