十七、
「で、何だったんだ。あいつは……」
「肇くんですか?実はいい子ですよね。言葉はまっすぐですけど」
「言葉も態度もだろ」
「でも、私以外で矢鏡様とお話できる人はいなかったので、貴重な人材ですよ」
「そこまで褒められると照れますねー」
「………だから、なんで家まで来てるんだよ!」
肇の相談という名の雑談の会が終わり、公園で解散したはずなのだが、何故か肇は2人の後をのこのことついてきて、夕飯まで食べているのだ。しかも、猫付きだ。どちらが幽霊かわからないほどに自分勝手だ。
肇が独り暮らしでいつもコンビニ弁当だと聞いた紅月はかなりの量を作って、肇をもてなした。食べきれる量ではない。きっと、あいつに持って帰らせるつもりだろう。何故、そこまでするのか。
それに、公園から変える時からどうも様子がおかしい。
「紅月ちゃん、お弁当屋さんで働いてるから料理上手って噂を聞いたから、食べてみたいなーって。やっぱ美味しいわ」
「そう言ってもらえてよかった」
「食べたらさっさと帰れよ」
「矢鏡様は冷たいなー。……あれ、紅月ちゃん食べてない?」
「うん。お腹すいてなくて……。それに、肇くんに食べもらいたいしね」
「………」
今日は顔色が良くない。紅月の体調が優れない事に矢鏡は気づいていた。
出かける事をやめるように話もしたかったが、紅月は何故か張り切っていたため、なかなか声を掛けられなかったのだ。何か特別にな事があるのだろう。そう思っていたが、蓋を開けて見れた、肇という男と会っただけだった。相談事も大したものではない。
あの2人が何をしたかったのか。矢鏡には全く理解出来なかった。
それよりも何よりも、紅月の体についてが心配事だ。
彼女の体で何が起こっているのか。それを理解しているのは、矢鏡だけだ。紅月自身は、前に矢鏡がしっかりと呪いを祓ったと思っているためだ。実際呪いは祓った。けれど、全ての呪いを祓い終わったわけではない。
紅月の体を蝕んでいるもの。
それは、矢鏡が大昔に倒した巨大な白蛇である。そして、それは蛇神様としてあの村で祀られている神の呪いなのだ。
矢鏡はもうほとんど廃れてしまった神社。一方では、信仰者が多く立派な神社まで建てられている。
そんな神様の呪いが、紅月の体にあるのだ。大きな負担がかかっているはずだ。
それに、紅月の体から、良くない気配を感じる事が多くなってきたのだ。
確実に悪い方へと進んでいる。
ここ数日はそれが徐々に大きくなっているようだった。
これまででは、紅月の命にかかわるものだ。
力が大きな神だからと言って尻込みをしている暇なのない。
昔だって、自分より遥かに大きい巨大な白蛇を討ったではないか。
神という立場になったとしても、また同じように倒せばいいのだ。
何度でも倒してやる。