十六、
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蛇の呪いは、紅月の体を侵攻していっている。
早く祓う方法を考えなければいけない。自分の力が強くなれば問題はないのだが、自分に感謝してくれる人間は紅月しかいない。前回使った『耳なし芳一作戦』では、紅月の負担が大きくなってしまう可能性がある。あの程度の呪いでも、矢鏡は倒れてしまったのだ。それよりも力が強いやっかいな呪いとなると、太刀打ちできないだろう。
呪いが暴れ始めた時のために、力は残しておきたかった。
それなのに、予想外の依頼が舞い込んでくることになる。それも、紅月によって。
「うわー。銀髪に黄金の瞳。コスプレじゃない、本物ってやっぱり綺麗っすねー」
「………なんだ、こいつは」
「わ、しっかり声も聞こえる。声までかっこいい。イケメン声、いいな」
「だから、誰なんだ!」
矢鏡の前には、自分と同じか少し高いぐらいの長身の男が立っていた。漆黒の髪に切れ長の黒い目。こいつもこの国ならではの風貌をしていた。けれど、高い鼻に小さな小顔は、最近テレビの歌番組で見るアイドルという人物によく見ていた。司会者に「イケメンですね」と言われていたので、この国での「かっこいい」という分類の人間なのだろう(イケメンはかっこいい。かっこいいは、女性から人気の容姿をもつ人物を示す言葉だと紅月に教えて貰った)。そして、白檀の香りを纏っている男だった。
それに加え、彼の周りには沢山の猫がおり、膝には黒猫や三毛猫、腕には真っ白で青い色をした瞳の子猫、肩にも茶色の猫が乗っており、男の近くの足元にもわらわらといるのだ。
「矢鏡様、すみません。彼は、私の友人の#成瀬肇__なるせはじめ__#くんです。肇くん、こちらは矢鏡神社の神様の矢鏡様。その、私の旦那様です」
「あー、ご結婚おめでとうございます。神様と人間って、結婚出来るんですねー。それで、2人はどこまでいってるんですか?」
「ちょ、ちょっと、肇くん!?そういう事は普通面と向かって聞かないから!というか、今日はそんな話しをするために矢鏡様を紹介したわけじゃないんだから」
「どこまでいってるって、何のことだ?」
「あー、それは………」
「矢鏡様も話にのっからないでください!」
何故か真っ赤になって話を止めようとする紅月に疑問を持ちながらも、肇という男をジッと見つめる。
自分と会話が出来ているという事は、この男は矢鏡という人外の存在に見えているという事だ。
矢鏡との会話がなくても、#あの状況自体__・__#がそれを物語っているが。
この日、紅月は「紹介したい人がいるの」と矢鏡を誘って街へと出かけた。
案内された場所は、街から少し離れたところにある、緑が豊かな公園だった。敷地も広いのだが、遊具はあまりないため、比較的静かな公園だった。子どもより、大人がゆっくりとくつろげる場所のようだ。今日は梅雨の晴れ間で、気温も丁度いいので公園にはそれなりに人もいた。けれど、今日は平日の昼間だ。そこまで人数は多くなった。
友達でも紹介したいのだろうか。と、いっても自分の事は見えないだろう。不思議に思いながらその場所までついて来たが、それは杞憂だったようだ。
だか、その事が1番驚いたわけではない。友人は女性だとばかり思っていたので、男性が待ち合わせ場所に現れた時は驚いてしまった。しかも、年下のイケメンだ。やはり、紅月はモテるのだろう。
心の奥が、モヤモヤとしてしまう。自分が夫なのだから、何の心配もしなくていいはずなのだが、自分の知らない所でイケメンの異性と関わっているのかと思うと、悔しくて仕方がなくなる。