十四、
シャンシャンッ。
今までこの音を聞くと、神秘的な雰囲気があり気持ちが凛とすると思っていた。
けれど、今は違う。不吉な事が起きる前兆にしか考えられなくなった。
その音は、鈴の音。
それも1つではない。複数重なった、重く耳に残る音だ。
夢の中で七五三鈴の音が聞こえて、うなされるという事をあの日以来多くなっていた。あの日というのはもちろん、白無垢の女が崖から飛び降りたのを目撃した時からだった。あの事件は、矢鏡にとって生きてきた中での1番の衝撃だった。
どんなに罵声を浴びせられても、無視をされても、孤独になっても、矢鏡は生きる事に執着していた。いや、死が恐ろしかったのかもしれない。臆病だからこそ、独りだからこそ、苦しみや痛みに襲われるだろう事が怖くて仕方がなかったのだろう。
だからこそ、あの少女が追い詰められ自分から命を絶ってしまった事が信じられなかったのだ。けれど、白無垢の少女の姉だという女の話を聞けば、あの時の少女の呪いの言葉の意味も、自分から命を絶たなければいけない状態だった感情も、少しだけかもしれないが理解したつもりだった。
そんな辛く悲しい立場にたっていた本人ではないのだから、全てを理解出来るとは思ってもいない。けれど、想像は出来る。
あの女が村や家族から「逃げたい」と言った言葉を。
夢の中でもそんな事を考えてしまうのは、全て鈴の音のせいだ。また、夢の中で鈴を聞かされうなされているぐらいなら、もう目を覚ましてしまおう。
矢鏡は無理やり自分の意志で夢から覚め、目を開いた。そんな事が容易に出来てしまうのだ、きっと浅い眠りだったのだろう。
目を冷ますと、寝起き特有のぼんやりとした視界と気持ちになる。が、どうも鈴の音だけは耳にこびりついているようだ。
「……悪夢か……」
ため息とともに体を起こした、矢鏡でその異変に気づく。
その鈴の音は寝ぼけているわけでも、耳鳴りでもない。現実に聞こえてくるのだ、と。
あの日のように、少しずつ近くなっていく鈴の音。神楽鈴の沢山の鈴が重なって聞こえるのだ。
「……くそっ!!」