二十八、




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 「紅月ちゃん!!」



 料理を入れてもらったタッパーを返しに行こうと、肇は紅月の部屋を訪れた。だが、それは口実でしかない。嫌な予感がしたのだ。
 何度チャイムを鳴らしても紅月が出る事はなかった。そこでハッとしてドアノブに手をかけると、簡単にドアが開いた。
 廊下の先に広がる光景に、肇は悲鳴のように彼女の名前を呼んで駆け寄った。



 「紅月ちゃん、………嘘だろ。矢鏡様まで……」


 脈をはからなくてもわかる。
 2人は呼吸もせずに、床の上で倒れていた。もう遅いのだ。2人ともこの体に魂はない。死んでいるのだ。
 矢鏡は何かにかまれたように体のいたるところに穴が開いていた。けれど、紅月と矢鏡はお互いの片手に触れながら微笑んでいるのだ。それは、とても穏やかでまるで良い夢を見て寝ているかのように思わせるほどだった。


 「……矢鏡様が守れなかったわけじゃない、のか?」


 2人は死んでしまっているけれど、どうやら幸せになったのではないか。
 そう感じさせるものがあった。




 紅月が肇に持ち掛けた契約。
 それは矢鏡神社を年に1度でいいので参拝して掃除をしてほしいというものだった。そして、死ぬまでに他の参拝者を見つけて、矢鏡神社の参拝者を途切れなくしてほしいというものだった。
 それを引き受けてくれるならば100万。自分が死んだ後にもう100万渡すようにするということだった。肇は面白半分にその契約を受け入れる事にした。年に1度参拝するだけで200万というのはいい条件である。友達に「ご利益ある神社だよ」と紹介すればきっとみんな行くだろう。そんな風に考えていた。