二十五、
大きく細い舌がチラチラと出ているが、巨大な蛇の口が動いている様子などはなかったので、蛇神が直接頭の中に声を掛けてきたようだった。
その蛇神の提案を聞いた瞬間、夢の中であっても優月は頭に血が上っているのがわかった。
「あなたからの情けなど受けたくありません。私は、独りではありません。死ぬときぐらい穏やかに逝きたいので、私の夢に勝手に出てこないでください」
『話シヲ聞カナイト後悔スルゾ』
「何を勝手な事を……」
これが起きている時ならば、とっくにこの蛇の前から立ち去っていただろう。けれど、夢の中ではそうはいかない。それがもどかしく、優月は逃げ出したい気持ちに駆られる。
だが、それが出来ないのだ。
『矢鏡神社ヲ消滅サセタクナイノダロウ?』
「え……」
『神ハ人間ニ忘レラレレバ存在ガナクナル。消滅ダ』
「左京様が消滅する。いなくなってしまう?」
『ソレ、私ナラバ防ゲルゾ』
「………それはどうして」
『話ヲ聞クノカ。人間ノ娘ヨ』
こんな年老いても娘と呼ばれる事に不思議に思いながらも、優月はその楽し気に笑う蛇を睨みつけた。
人が必死になっている時に面白げに笑うのだ。やはり、この蛇神というのは良い存在ではにと改めて思ってしまう。
『死ンダ後、人間ニ甦ッタ時に、今ノ記憶ヲ残シテオイテヤロウ。理解ハ出来ナイダロウガ、生マレタ瞬間カラ矢鏡神社ノ神ダッタ人間ノ記憶ハ残ッテイルヨウニシテヤル』
「そうすれば、左京様は消滅をしないで存在出来るのね………!」
『ソウダ』