ーside 奏都ー



吉野さんは、仕方なしに俺の番号を登録して保健室から出て行ってしまった。



夏目先生の言う通り、じっくり話ができるような状態ではなかった。



だけど…



一瞬だけだったけど、俺に見せたあの切ない表情が心に引っかかる。



知られたくない感情を、必死に隠しているように思える。



それから…



どこか、感情を押し殺しているようにも思えた。




一体、彼女に何があったんだ?



それ以上に、俺は君に何をしてあげられるのだろうか。



まだ、会ったばかりのはずなのにあの子のことが頭から離れなかった。




仕方なしに俺の番号を登録してくれたけど、きっとこの場から一刻も早く離れたかったんだろうな。




登録してくれたとはいえ、彼女からかけてくることなんてないんだろうな。




「はぁー…。」



深いため息が漏れる。



体調のこともそうだけど、貼り詰められた心がいつか壊れてしまうんじゃないかと心配になる。



頼ることは無いと思うけど、いつ何があっても大丈夫なように、すぐに彼女の元へ向かうことができるように連絡先を渡していた。




いつか、彼女に大きな試練が待ち構えているとしたら、吉野さんがそれに負けないように支えていきたい。



彼女には、彼女らしく生きていてほしい。



それに、もっと肩の力を抜いて誰かに寄りかかっていいことを彼女に教えていきたい。



言葉にはしないけど、吉野さんと過ごしていくうちにそれが伝わればいいと思うから。



時間をかけながら、吉野さんと信頼関係を築き上げていこう。



今、俺にできることは吉野さんが安心して学校生活を送ることだから。