ーside 心和ー



「あの…。」



どうして、ここに連れてきたわけ?



今、少し苦しいけどまだ我慢できる。



このくらいなら、保健室に来なくても大丈夫なのに。



そもそも、この人は誰なの?




「吉野心和さん…だね?」



「はい。」



「俺は、城山奏都といいます。


城山大学病院から来ました。


今日から、ここの保健医として勤務することになったからよろしくね。」




「あ…。そうですか。」



正直、どうでもよかった。



保健医となんて、関わることは滅多にないわけで。



前の保健医の先生とも会話なんて、あまり交して来なかった。



まあ、向こうが私を面倒がってたんだよね。



わざわざそんなことで、私を呼び出したわけ?



まさか、新任式に参加しなかったからここに呼ばれたの?



いや、でもそしたらここに華和も呼ばれているはずだよね。




「話は、それだけですか?


それなら私、失礼します。」




私は、椅子から立ち上がろうとしたけど再び椅子に座るように肩へ城山先生の手が伸びてきた。



「私に触らないでください。」



「あっ…。ごめんね。

だけど、そんなに苦しそうなのに教室に戻ったりしたら倒れることは目に見えて分かる。」



「このくらい…。」



「吉野さん。今日は午前中で終わりなんでしょう?


今は、ここで休んでから家に帰りな。


1人で帰るのが難しいようなら、俺が吉野さんの家まで送るから。」




「いいです。1人で帰れますから。」



「吉野さん。君のことが心配なんだ。


身体が辛い時や、苦しい時は誰かに頼っていいんだよ。」




この人もきっと、他の大人と一緒。



綺麗事を並べても、いざという時に私を助けてくれるわけないんだから。



今まで、そんな大人達をたくさん見てきた。



同情の眼差しを、今までたくさん浴びてきたから。



「吉野さん。無理に、信用しろとも言わないけど俺の事を頼りにしてくれないかな。


吉野さんの心の支えになりたいと思ってる。


そのために俺は、ここへ来た。


だから、吉野さん…。1人で抱え込まなくて…」





「やめてください!」




城山先生の言葉を遮るように、私はそう言い放ち立ち上がっていた。



「吉野さん?」



「私のことは、あなたに関係ない。


私は、あなたのお世話になるつもりもありません。


ですから、これで最後です。」



「…分かった。そこまで言うなら無理に吉野さんの家までは送らない。


ただし、約束してほしい。


今すぐ、俺の携帯の番号を教えるから俺の見てるところで登録してほしい。


それで、何かあったら必ずここへ連絡して。」





「どうして…あなたの言うことを聞かなければいけないんですか?


例え、保健医とはいえあなたはただの他人ですよね?


それに、さっきも言いましたよね?


この先も、私はあなたに頼ることは無い。


関わるのは、これで最後って。」




「…約束できないなら、俺は君を1人で帰らせるわけにはいかない。


悪いね、吉野さん。


俺は、諦めが悪いんだ。


例え、君が俺と関わりたくないとしても俺には君を守る義務があるんだ。


だから、そう簡単には引き下がれない。


吉野さん。


全てを1人で背負っていこうとしなくていいんだよ。」




最後の先生の一言で、目頭が熱くなっていく。




初対面のこの人に、私の心の中を読み取られているのかと思うと早くここから逃げ出したかった。




私のことを分かってるみたいな言い方をしないでほしい。



そんな言葉で、私の心を揺らさないでほしい。



心を強く持って、生きていかなければいけないのに。



強くないと、私1人で生きていくことなんてできないから。



きっと、登録したところでこれ以上この人と関わることはない。



それに、1秒でも早く今はここから出たかった。



仕方なしに私は、この人の携帯番号を登録して保健室を後にした。