夏目先生との電話を切ってから、俺は親父のいる院長室へ向かった。
「失礼します。」
「おお、奏都か。珍しいな、勤務中にここへ来るなんて。」
「ちょっと、話があって…。」
「そこへ、座りなさい。
午後の診察までは、あと1時間はある。
コーヒーでも飲みながら話そうか。」
親父は、コーヒーを入れてくれた。
「実は、今日いっぱいでこの病院を辞めようと考えてます。」
「え?」
「さっき、恩師である夏目先生から電話が来たんだ。夏目先生、今高校の校長先生として働いている。それで、その高校に心臓に病を患っている生徒がいるらしくて。
校長先生は、その子に今の高校で学んでほしいと考えているみたいなんだ。彼女の未来を守りたいって話していた。
それで、今年の3月でその高校の保健医が辞めてしまったみたいで、今その子を助けられる人がいないらしいんだ。
その子に、何かあった時助けるために俺の力が必要みたいなんだ。
だから、明日からその高校の保健医として働きたいんだ。」
父親に相談せず、口約束で返事をしてしまったから正直父親が俺の考えを認めて賛成してくれるとは考えていない。
俺が診てる患者もいるわけで、その患者の治療の引き継ぎも大変なことだって分かっているから。
だけど、きっとこの話を断ってしまったら一生公開するような気がしていた。
しばらく、親父は黙り込んでいたけどコーヒーを1口口に含んでから穏やかな表情へ変わった。
「それは、奏都自身の意思なのか?」
「はい。」
「それなら、俺は何も言わない。
保健医に興味があることは知っていたから。
奏都が診ていた患者は、他の医師が異動するまで俺が責任持って受け持つ。
だから、奏都。
分かっているとは思うけど、病気を持った生徒を任される責任は重いんだ。
中途半端な気持ちで、その話を受けてはいけない。
まあ、奏都のその表情を見れば中途半端な気持ちじゃないことくらい分かるけどな。
奏都。責任持って、その子のために頑張るんだよ。」
「ありがとう、親父。」
俺は、頭を下げてから院長室をあとにした。