ーside 奏都ー



彼女がホームルームへ向かう前に俺に話してくれた言葉が嬉しかった。



きっと、奥本教授と心に秘めていた思いを話すことが出来たのかもしれない。




少しでも、思い詰めた表情が変わり穏やかになってよかったと心の底から安心できた。



コンコン



めずらしいな。朝早く誰か具合でも悪くなったのか?



「どうぞ。」




「失礼します…」




「十神さん…と心和ちゃん!?」




「心和、顔色悪くて。きっとさっきの話し合いが…」




「話し合い?」




「さっき、学級委員である華和を中心に体育祭のスポーツ種目を決めていて…


それで、クラスの奴らが心和の身体のことを分かっているはずなのに体育祭には出ないのかって。


毎年、心和は体育祭には欠席してるんです。



それでも、心和は準備とか色々とクラスにちゃんと貢献してるのに…」




晴翔君は、詳しく状況を話してくれた。




「正直、心和の今の状態で体育祭になんか参加したら倒れることは目に見えて分かる。



心臓に1番負荷をかけさせたくないんだ。



本当なら、その準備だって重労働のこともあるから考えた方がいいんだけど…



それでも心和はクラスのためにって思って頑張ってるんだよな。」





隣に座る心和は、俺の言葉に小さく頷いた。




「でも、あの2人の言い分も分かる。



中には、スポーツ大会に参加したくない人だってたくさんいると思うから。



運動は無理かもしれないけど…何かの形でみんなのためにできることがあったらいいのに。」




「そうだな…それなら、体育祭の日俺の手伝いをするっていうのはどう?」





「え?」




「先生の手伝い?」





「まあ、あまり大したことないかもしれないんだけどね。


心和には、体育祭で怪我した人の相手をしてほしい。」




「え?」




「もちろん、手当は俺がするけど。


その手当の手伝い。


それなら、心和も無理なくできるしクラスの一員としてできるんじゃないのか?」



俺の提案に華和ちゃんと晴翔君は「なるほど」と言わんばかりに頷いている。




「だけど…




私に出来ることってきっとそれくらい。」




俺の提案に、心和が頷いた。




「よし。あっ、だけど当日体調が悪かったりしたら休んでね。


おそらく、奥本教授が一緒だから大丈夫とは思うけど…」




「うん。分かってる。」




「あと、心和。もう少しここで休んでいきな。

顔色悪いから。」



朝、心和と会った時よりも明らかに顔色は悪く体調が悪くなっていることは目に見えて分かった。



2人が部屋を後にしてから、心和を抱き抱える。




「ちょっと!大丈夫なのに…」




体がビクン!と反応したのは分かるけど、今の顔色から見たら立ちあがって自分の力でベッドへいく力は残っていない。



「そんなに顔色が悪くて何が大丈夫だよ。


朝のホームルームから体調悪かったんだろ?」




「このくらい…」




「えっ?」




「このくらいならまだ大丈夫…。大したことじゃないよ。」




明らかに呼吸の乱れがあり、本人は気づいてないのかもしれないけど、前屈みになっている。



横にしてあげたい気持ちが強いが、寝かせたら余計に呼吸が苦しくなってしまう。



枕を重ね、彼女が辛くないように体勢を整える。




「きっと、心和は病気の苦しさに慣れてしまって、医者の目から見てそろそろ休まなきゃいけないところにまで達していても気にせず無理をしてしまうと思うんだ。


病気と付き合ってきて、その息苦しさにも慣れてその生活が当たり前になってしまう。


だから心和。



体調が急激に悪化して、心和を救えなくなることがたまらなく怖いんだ。



学校ではいつでも俺の事を頼って。



すぐ息苦しさを感じたらここに来て。」





「でも、そんなに来たらあなたの迷惑じゃ…」




「迷惑なんてあるか。心和のために俺は今ここにいる。



だから…



難しいとは思うけど…



少しずつでいい。俺のこと頼って。」




正直、今すぐにでも今にも壊れてしまいそうな小さな背中を抱きしめたい。



少しの間、彼女を抱えた時うるさいくらいに心臓が音を立て加速していった。



驚くくらい、自分の体温も上がっていて。




彼女に今の気持ちが伝わってしまわないか不安で仕方なかった。