「心和、どこに行ってたの。」
教室に戻ると、教壇の上に立つ奏和が私に視線を向けて声をかけた。
「心和さん。
あなただけまだ、種目決まってないよ。」
「私は…。」
「病気があるからって、体育祭に参加しないつもり?」
その一言で、ざわついていた教室が一気に静まり返った。
その重い空気と一緒に、クラスメイト全員からの視線が私に集まった。
何、この空気…。
私に、強い口調でそう言ったのは派手なグループにいる山本凛花と金森友梨。
栗色の髪に、きつい香水を付ける彼女達。
そう言えば、クラス発表があった時も私に声をかけて来たんだよね。
「ちょっと!心和は、体育祭の日はいつも休むように先生からも言われてるのよ!
だけど、体育祭の準備とか私達クラスにたくさん貢献してくれてるんだからね。」
華和は、教壇から降りると私を庇うように私の前へ立っていた。
「えー?そんなの、関係なくない?
1人だけ、病気を理由に優遇されるのはおかしいと思います。
学級委員のあなたも、クラスの為に何もしないこんな人のことを庇うなんて、学級委員失格じゃないんですか?」
私のせいで、華和まで…。
だけど、山本さんが言うことも間違いではない。
人数の関係で、出たくもない種目に参加をしている人もいるんだから。
それに、体育祭が嫌いな人だっている。
だけど…。
本当は、皆と体育祭に参加したい。
思いっきり、体を動かしてクラス対抗の種目に参加したい。
「やめろよ。」
机を叩く鈍い音と一緒に、晴翔が凛花と友梨に鋭い視線を向けていた。
「は?」
「お前、心和のことどこまで知ってるんだよ。」
「晴翔…」
「な、なんで晴翔までこんな奴庇うの?
それにどこまでって…。病気があるんでしょ?
だから、毎年体育祭に参加してないんでしょ?」
「そこまで分かってて、なんで心和に無理を言うんだよ。
心和だって、体育祭に参加したい気持ちを必死に我慢しているんだ。
心和が、無理をして倒れたりしたらお前、責任取れるのかよ。」
晴翔は、今までにないくらいの強い口調で、山本凛花にそう言い放っていた。
「もう、いいだろう。」
ずっと黙っていた担任の先生が、晴翔と凛花の間に入った。
「吉野、顔色があまり良くないからとりあえず保健室に。
十神、吉野のことをお願いしてもいいか?」
「はい。」
「俺も、一緒に行きます。」
「ああ。佐伯もよろしく。」
私は、華和と晴翔に肩を支えられながら保健室へ向かった。