一限目を知らせるチャイムと同時に、騒がしいクラスは一気に静まり返った。
「今日は、体育祭の競技決めを行います。
学級委員、後はよろしく。」
「はーい。」
先生の指示に、だるそうに華和は返事をした。
華和と一緒に、男子の学級委員である市原君も前に出る。
1年に1度の体育祭。
私には、無関係な行事。
本当は、皆と一緒に体を動かして体育祭を楽しみたい。
だけど、それが許されない体。
「はーい。じゃあ、体育祭の種目決めしまーす。
とりあえず、やりたい種目ある人いるー?」
華和の言葉に、再び教室が一気にざわついた。
正直、この空気はあまり好きではない。
この騒がしい騒音に、頭が痛くなる。
私には、関係の無いことだから屋上にでも行こうかな。
華和には悪いけど、この空気に耐えられない。
静かに教室の後ろから抜け出し屋上へ向かう。
「疲れたな…。」
屋上は好きだけど、階段を登らないといけないから息が苦しくなる。
本当に、私の病気は治らないのだろうか。
いつまで、この苦しみに耐えないといけないのだろうか。
「はぁー…。」
「溜息ばかりついてると、幸せが逃げてしまうよ。」
「城山先生。」
「なんて、誰が言ったんだろうな。
溜息をつくことで、自律神経が整う。
不安なこと、苦しい気持ちが楽になる。」
「別に私、何も…」
「何にもないなんて顔してないけどな。
心和はいつも、何か思い詰めてる表情をしてる。」
「城山先生。私の病気…。
拡張型心筋症、本当に移植しか治る方法はないのかな。」
奥本先生から、この診断がついた時に話をしてくれた。
拡張型心筋症は、ゆっくり、だけど確実に進行する病気。
薬で完治することはなく、方法は移植しかないということ。
それに、未成年の私は日本では移植ができない。
海外での移植でしか認められない。
高度な医療と技術が必要な故、リスクもかなりたかいということ。
本当は、私だって怖い。
発作で、亡くなることがあるって知っているから。
怖い…?
何が、怖いの?
「あれ…」
「どうした?」
「私…。何に怖がってるんだろう。」
今、不意に怖いと感じた。
昨日までは、何も感じていなかったこの気持ち。
このモヤモヤは、何なの?
「いい兆候だと思うよ。」
「えっ?」
「きっと、心和の中で生きたいっていう気持ちがあるんだ。
だから、病気が怖いと感じる。
苦しい思いをすることや、死に対することが恐怖心へ繋がる。
それって。人としても、今の自分のままで生きていたい。大切な人の傍にいたいって思うからだと思うんだ。」
今のままの私?
私の、大切な人…。
ふと奥本先生の優しい笑顔と、華和や晴翔の顔を思い浮かべた。
「私にも、大切な人がいる。」
大切な、幼なじみと私を優しく守ってくれる奥本先生。
まだ、出会って間もないけど信じてみようと思う城山先生の存在。
私に関わる人と、今は一緒の時を過ごしていきたいと自分の中で思うようになっていたんだ。
「ありがとう、先生。
私、教室に戻る。」
「また何かあったら、保健室へおいで。
いつでも待っているから。」
「うん。」
城山先生に、心を温められていることに気づき自然と優しい気持ちになっていた。
私は、城山先生と別れ教室へ向かった。