「おはよう。」
下駄箱で、上履きに履き替えていると城山先生が明るい笑顔で私に声を掛けた。
「おはようございます。」
何となく、目を合わせて挨拶を返すと城山先生は再び優しい笑顔を向けた。
「何だか、表情がすっきりしたね。
昨日は、切羽詰まった表情をしていたから心配していたんだ。」
「もう、何も心配いりませんから。
それから…。
これから、きっと頼ることがあるかもしれないので…。
その時は、よろしくお願いします。」
奥本先生が、信用している城山先生を私も信じる。
病気を持っている以上、城山先生を頼らないといけないから。
華和ばかりに、負担をかけるわけにもいかないし。
「それじゃあ、失礼します。」
時が止まったかのように、固まる城山先生に頭を下げ教室へ向かう。
「ちょ、ちょっと待って。心和ちゃん。」
「はい。」
「いや、ありがとう。」
「えっ?」
「俺に、チャンスくれて。」
「チャンス?」
「頼るって言ってくれて。
それって、少しでも俺の事を信じてみようと思ってくれたってことだよね。」
「はい。
だけどまだ、完全には無理かもしれません。
時間がかかるかもしれない。
でも、自分を苦しめるのは辞めました。
1人でどうにも出来ないことはたくさんあるから。」
「それでもいい。
ゆっくりでいいから、心和の気持ちを話してほしい。
病気のことも、気持ちの面でも俺は心和の心の支えになりたいって思ってる。
心和はいつでも自分自身を俺に委ねてくれていいから。」
優しい笑顔を向けながらも、視線は1ミリも外さない。
真剣な眼差しで、私にそう話す。
そんな、真剣な城山先生に首を縦に振ることしかできなかった。
城山先生の優しさに、心が温かくなっていくことが分かる。
「それじゃあ、失礼します。」
城山先生に、頭を下げてから私は教室へ向かった。