「心和。」
もう、自分を苦しめなくていい。
自分を、責めなくていい。
お姉さんを、犠牲にしたと思わないで。
きっと、心和の心の支えは姉の琴雪ちゃんだったんだろうから。
「心和。無理に、姉の琴雪ちゃんとの過去から自分を切り離せとは言わない。
心和には、自分の人生を生きてほしいと思う。
琴雪ちゃんが、心和に遺した思いはきっと心和を苦しめるための物ではないと思うんだ。
心和が、1人の女の子として生きていてほしいと願ったんだと思う。」
心和には、幸せになってもらいたい。
それは、私の願いでもある。
「だけど…。いいのかな…。
私、琴雪の分も幸せになってもいいの?」
「ああ。琴雪ちゃんには琴雪ちゃんの人生があって。
心和には、心和の人生がある。
どんな産まれ方であっても、この世に姓を受けたからには誰でも平等に幸せになる権利も、生きていく権利もあるんだ。
生きていたらダメな人なんて、1人もいない。
心和。
きっと、この先も心和にたくさんの壁が立ちはだかると思うんだ。
人はみんな、弱いから1人で乗り越えることは難しいと思う。
幸せになるための道は、険しいかもしれないしたくさんの試練も乗り越えないといけないけど、どんな時でも心和を支えていきたい。
この先もずっと、心和の人生を支えていきたい。
いつか、心和の心からの笑顔を見たいんだ。
幸せになる道へ歩みはじめる心和を誰よりも近くで見ていたい。」
いつか、心和が大切な人と巡り会えて。
誰かと一緒に、家庭を築く時も。
まだまだ、道のりは長いかもしれないけど。
心和が、心から幸せを感じられる日がくることを祈りたい。
心和のお姉さんの分も、幸せになってほしい。
それでも、心和には心和の人生があるわけでお姉さんの人生を引き受けなくていい。
お姉さんが遺してくれた、本当の思いがいつか心和の支えになっていってほしい。
「先生…。
私、いいのかな…。
この先も、先生のそばにいても。
皆と同じように、遊んだり楽しい思い出を作っても。
琴雪は、私を恨んだりしない?」
「恨むわけないだろう。
琴雪ちゃんは、心和を大切にしていたんだろうから。
心和が、そう思えたのはきっと琴雪ちゃんの愛情を感じられたからだと思うんだ。
もう、自分を解放してあげていいんだよ。」
心和の貼り詰められていた心の糸が切れたように、心和の瞳から数多くの涙が溢れ出ていた。
それから、心和が話すことはなくなり小さい子供のようにシャツを掴みながら涙を流していた。
心和を優しく抱きしめ、呼吸が少しでも落ち着くように背中を撫でていた。