ーside 奥本ー



初めて見る、心和の姿。



本当は、ずっと前からこうして泣きたかったんだろう。



もっと前から、この感情を誰かに受け止めてほしかったのだろう。



心和と暮らして、1年経った今。



ようやく、自分を頼ってくれて素直に嬉しかった。




それと同時に、心和と自分の間にあった壁が低く薄くなったような気がした。




こうやって、感情を表に出すこともなく心和はいつも偽りの笑顔を浮かべ、私に気を使っていた。




そんな心和が、いつかどこかでいなくなってしまうのではないか。



その事が、ずっと心配だった。




震える心和の背中を、心和が安心できるうに撫でていた。



顔は見えなくても、心和と今心が通いあっていると感じる。




「心和。泣きたい時は、思いっきり泣いていい。



ずっと、我慢してきたんだろうから。



落ち着いたら、ゆっくり顔をあげて。」




本当は、心和の頭を自分の胸へずっと預けてほしい気持ちがある。



だけど、薄い空気の中で心和の発作に繋がる可能性もある。




それは、心和も分かっているから全ての感情を出し切って涙を流すことは難しい。




「先生。」



「どうした?」



「このまま、聞いて。」



「ああ。」



心和は、背中に手を回したまま顔を胸に預けたまま話し始めた。



「私ね、ずっと分からなかったの。



自分が、この先もこうやって生きてていいのか。



幸せになったらいけないこの世界で、生きていないといけないのか。



この苦しみが、いつまで続くんだろうって。



ずっとずっと、考えてた。」




「うん。」




「先生、私。



ずっと、こうやって生きていかないといけないのかな。



もう、この世界からいなくなりたいよ。



だから、もう何もしなくていいの。



先生がこれ以上、私の面倒も見る必要なんてないんだよ。



これ以上、先生が私の悩みを引き受けなくていいんだよ。



だからね、もう私を楽にして。」





目に溢れ出す涙を、親指で優しく拭った。




心和が、両親から虐待や育児放棄を受けてきたことは知っていた。



心和の心に残った傷は、きっと深くそれが癒えることは簡単ではない。




だけど、今の心和の話を聞く限りそれだけが心和を苦しめているようには思えなかった。




他にも、理由があるのかもしれない。





『自分がこの先も生きていいのか分からない。』




以前にも、心和はそう話していた。




生きる意味が、分からないのであれば心和が生きる希望を見つけられるまでずっとずっと傍で支えていきたい。




彼女には、誰よりも幸せになってほしいから。





だけど。




心和の言葉を聞き、何か葛藤しているような気がした。




負の感情が心和の言動から伺えるけど、その言葉の中に生きたいという希望もあるように感じた。




そうでなければ、今心和はこんなに苦しんでいるはずがないんだから。




生きててもいいのか。




どうして自分が生きているのか。




きっと、心和は分からないんだろう。




今は、その理由が知りたい。