ーside 心和ー




「話がしたい。」



奥本先生は、いつもより真剣な眼差しをして私の瞳に絡ませていた。



何も話すことなんてない。




そう言って、今すぐここから立ち去ることが出来るはずなのに。




もう、どうしていいのか分からない。




自分の中で、どれだけもがいても何も答えなんて見つからない。




深い闇の中で、行く宛てもなくさ迷っている小さな子供のような気持ちをどう伝えていいのかも分からない。




こんな私が、生きていてもいいのかも分からない。




全てを終わりにしたい。




最終的な結論は、全てそこにたどり着いていた。





「ここ最近の心和。ずっと思い詰めた表情をしている。


一緒に暮らし始めて、1年経つけどまだ話すことは難しいかな?



少しでも、心和の気持ちを知りたいんだ。



完全に頼ることができないとしても、全て自分で考えて解決しようとしなくていいんだよ。



どれだけ1人で考えていても、答えは見つからない。



そうは言っても、話したところで正しい答えを見つけられないかもしれない。



きっと、心和はそう思っていると思うんだ。



話したところで、解決にもならないって。



だから、きっと話したくないんだと思う。」




「…分かってるなら、何も聞かなくていいじゃん。



私の気持ちを知ったところで、どうするつもりなの?」




「心和。少しだけ手を貸して。」



予想外の奥本先生の言葉に、私は動揺していた。



私の返事を待つまもなく、奥本先生は私の手を優しく握った。




「離して…」




「たしかに、心和の気持ちを知って心和が完全に楽になれるかは分からない。


だけど、心和の辛い気持ちを知りたいんだ。


気持ちを知ることが出来れば、その辛い感情を一緒に背負っていくことができるだろう。



何かあった時、心和を救いたいんだ。」




分かってる。



もう、奥本先生を信頼してもいいってことを。




頼ってもいいってことも。



奥本先生が、私を引き取った時からずっと奥本先生の愛情を感じて来たから。



ずっと真剣な気持ちで、私と向き合ってくれていたから。




奥本先生の優しさに触れて。



人としての感情を少しずつ取り戻して。



だからこそ、今私の心はこんなに弱まっているのかもしれない。



昔の私ならきっと、いくら優しい言葉をかけられていてもこんなに心が大きく揺れることはなかったと思う。




「もう…。限界だよ…。」



ぽろぽろと、止めることができない程涙が目から溢れ出ていた。




「もう、分からない。」



自分が、幸せになってもいいのか。




自分が、この世界で笑って生きていてもいいのか。



たくさん考えて、悩んできたけど。



もう、分からなくなっていた。



気づけば、奥本先生に抱きしめられ優しく背中を撫でられていた。