ーside 奥本ー



心和の笑顔が見たい。



彼女を守りたい。



本当は、彼女を養子として引き取りたい気持ちが強い。



だけど、心和はそれを望まなかった。



「私を養子になんてしたら、一生自分を許せない。」



あまりに切羽詰まった表情で、無理に笑う彼女を見たら、それ以上養子として引き取る覚悟があることを伝えることができなかった。



その言葉は、今でも心の中に引っかかったまま。



だけど。



あんな表情をされたら、その理由を必要以上に聞くことができなかった。




まだ話してくれないということは、きっと彼女の中で自分のことを完全に信用してくれていないからだと思う。




そんな関係で、無理に彼女の心に尋ねたりしたら余計に心を閉ざし警戒されてしまう。




だからこそ今は、主治医として彼女の治療に当たること。



生活面、精神面でも彼女を支えていくこと。




今の自分にできることは、少しでも心和が安心して生活ができるように環境を整えてあげることだと考えている。




彼女と出会って、早2年。



未だに彼女が心から笑う姿を見たことがない。



そんな中、今日の心和はいつもより表情の変化が見られていなかった。



相当、体調が悪いことは分かるけどそれだけではない気がする。



答えてくれないとは思うけど、お風呂から心和が戻ったら聞いてみるか。




そう考えていると、心和は少しだけふらつく足取りでお風呂から上がった。




「大丈夫?心和。」



「えっ?」



「いや、少しだけふらついているけど。」



「あー…。気づかなかった。」



心和は、自分のことに無関心というか。



体調が悪い状態に慣れてしまっているからか、処置が遅れてしまうことが多々ある。




そんな心和が、いつも心配で仕方ない。




「少しだけ、水を飲もう。」



心和がいつも使っているコップに水を注ぎ、少しぬるめの水を心和に渡した。




「ありがとう。」



「心和。少し話をしないか?」



「えっ?」



「心和の時間を、少し分けてほしい。」




心和が、答えてくれるかは分からないけど。



ここ最近の心和は、ずっと思い詰めた表情をしている。



一緒に過ごしていくうちに、心和の表情は少しずつ柔らかくなっていた。



本当の笑顔を見せてくれたことは未だにないけど、その心和の表情の変化が素直に嬉しかった。



だから今、自分の中で心和が出会った頃に戻りかけていることを感じていた。



それに、手首にある傷だって気になる。



まだ赤く、血が滲んでいるようだから最近作ったものだと思う。




心和は、ぶつけた場所が悪くて怪我をしただけと言っていたけど。




今の心和を見るとそうでは無いことが分かる。