そんな様子の彼女を見て、少し彼女の感じていることが分かったような気がした。
きっと、たくさんの苦労を経験してきたのだろう。
誰にも頼らず、今まで成長してきたのだろう。
事情はよく分からないけど、周りの大人を信用出来なくなった可能性はある。
きっと、彼女の両親との関わりや育ってきた環境がそうさせてしまったことには違いない。
言葉がどれほど強くても、心はきっと弱りきっている。
それを認めたくない気持ちと、知られたくない気持ちがあって誰かに優しい言葉をかけられたり、関わりを持たれることが彼女にとって嫌なんだろうな。
それでも、彼女は必死に生きようとしている。
それは、真っ直ぐに見つめる視線と17歳とは思えないしっかりとした言葉から伝わってくる。
だけど、苦しんでいるとしたら放っておけるわけがない。
「十神さん。ここはいいからそろそろ帰りな。
お昼もまだ食べてないんだろうから。」
十神さんはずっと、心和の手を握って離そうとはしなかった。
心和ちゃんのそばにいてくれるのは嬉しいけど、十神さんの両親も帰りが遅いと心配するだろうから。
それだけ、十神さんは心和ちゃんを大切に思ってくれているんだろうな。
「心和が、目を覚ますまでそばにいたらダメですか?」
「心配なのは分かるけど、ご両親は大丈夫?」
「大丈夫。」
「そうか。」
それにしても、怪我をしやすいのだろうか。
足や腕には昔怪我をした跡がいくつか残っている。
だけど…。
それは、普通じゃないことが分かる。
不自然な場所に残る傷や、火傷のような跡。
まるで、誰かによって作られたようなそんな跡。
もしかして…。
家庭内暴力があったのか?
だから今、主治医と暮らしているということなのか?
「心和!」
十神さんと、心和ちゃんを見守っていると保健室の扉を勢いよく開く音がした。
それと同時に、懐かしい人の声が聞こえる。
「あ、城山君。」
「お久しぶりです。奥本教授。」
そう。
今、目の前にいる奥本教授は俺が大学時代にお世話になった恩師。
まさか、吉野さんの主治医に当たる人は奥本教授なのか。
「心和の具合は?」
「発作が起きたので、薬を内服させて今は落ち着いています。」
「よかった。担任の先生から連絡があったんだ。
心和が倒れたって聞いて。」
急いでこちらへ来たのか、奥本教授は白衣を身にまとっていた。
「心和!」
「…華和…。あれ、私…。」
心和は、眠りから覚め身体を半分起こした。
「心和、苦しくないか?」
「奥本先生…。ごめんなさい私…。」
「謝らなくていいんだ。それより、今は苦しくないか?胸の痛みは?」
「今のところは大丈夫。」
「今日は、無理はせずゆっくり休むんだよ。
奥本教授が、そばにいてくれるから大丈夫だとは思うけど。」
「はい。」
随分と、素直に頷いてくれた心和ちゃん。
「あなたが、私に薬を飲ませてくれたの?」
「ああ。制服のポケットに薬があったから。」
「そう…ですか。」
「城山先生。心和を助けてくれてありがとう。
私も、安心して家に帰れます。
心和、何かあったらいつでも連絡してね。」
「うん。ありがとう、華和。」
十神さんは、心和ちゃんの頭を撫でてから元気よく保健室を後にした。