「何で…。」



「えっ?」



「何で、ここにいるのよ。」



何しに来たの?




こんな所まできて、綺麗事を並べる気?



私のことを、何でも分かってるよな口調で、飛び降りないように説得をしに来たの?



「馬鹿にしに来たわけ?」



「えっ?」


「どうせ、飛び降りられないくせにって笑いに来た?」



「いや…。そうじゃない。」




城山先生は、私の隣に腰を降ろした。




「ただ、君の姿が見えたから。


気づいたら、足先がここへ向かっていた。」




優しく微笑む城山先生。



そして、城山先生は空へ顔を上げる。




「ここで空を見上げると、心が落ち着くんだ。」




「そう。」




日中は明るい日差しで包み込まれ、夜になると月光が暗闇を明るく照らす。




どうしようもない気持ちが、積み重なった時も。



この大きな空が、かき消してくれるように思える。




だから、私もここから見上げる空が1番好き。




「なあ、吉野さん。」




「何?」



「なるべく、1人で溜め込まないでほしい。」




「…えっ?」



「きっと誰も信じられなくなっていることは、吉野さんの表情や言動から分かるんだ。


無理に人を信じろとは言わないけど、限界まで自分を追い込まないでほしい。」




城山先生は、1ミリも外さない視線で真剣な眼差しでそう話す。




その、力強い言葉と視線に身体中が金縛りにあったみたいに身体が固まる。




そして、城山先生から視線を外せなくなっていた。




この人の眼差しは、嘘偽りがなくて。




可哀想な子っていう気持ちがないってことは、初めて会った時から気づいていた。




だから、こんなにこの人の言葉に心が大きく揺れているんだ。




だけど…。




私には、人の優しさなんていらない。




むしろ、不幸でいることが私にとっては都合がいいの。



自分だけが幸せになるなんて、絶対にあってはいけないから。




苦しんでるくらいがちょうどいい。



悲しみにくれてる方がちょうどいい。



何もしてほしくないし、何もしないでほしい。



これ以上、私を罪悪感でいっぱいにしないでほしいから。




それでもまた、何かを言い返せばきっとまた優しい言葉をかけてくる。



「いらない…。」



「えっ?」



「お願いだから…。


私に、優しくしないで!


私には、そんな言葉いらないの。」




私は、この人に背を向け屋上から校舎へ走り出していた。