ーside 心和ー



保健室を後にしてから、私は屋上へ向かっていた。



携帯の画面には、奥本先生からの着信が1件残っていた。



いつもならすぐ、掛け直すけど今はそんな気分ではなかった。



保健医に、心の中に入り込まれそうになってそれを阻止することに必死になっていた。



面倒な人が来ちゃったな…。



私は、重いため息をついてから足を外に投げ出すように座った。



流れゆく雲を眺めていると、ふと琴雪の笑った表情が頭の中に浮かび上がった。



「琴雪…。私…」



私も、琴雪の元へ行けば今の苦しみから解放されるのかな…。




何度も、琴雪の元へ行こうとした。



ここから、飛び降りればどれだけ楽になるのだろうと思った。



そう思って、いつも私は高層ビルの屋上へ向かいこうやって不安定な足元に腰を降ろして座っていた。




でも…。



自殺をする勇気なんてなくて、不可抗力で落ちてしまえばいいのにと思う弱い自分がいた。




その行き場のない思いが、私を苦しめていた。



だけど、それだけではなかった。



飛び降りようとした時、いつも琴雪が最期に残した言葉が頭の中に響いてくる。




まるで、近くで語りかけているように感じる。




私の自殺を、止めるかのように。





『たくさん、苦しめてごめんね。あなたは、1人の女の子としてこれからも生きて。』





最期に、私の頬に手を添えて今にも崩れそうな優しい笑顔で琴雪は私にそう話した。




その笑顔と、頬に残る温もりが今でも忘れられない。




ひたすら出てくる言葉は…




「ごめんね、琴雪。」



それだけだった。



謝ることしかできない私を。



あの日、何の役にも立たなかった私を。



どうか…許してほしい。




やばい…。



涙が、勝手に出てくる。




「あれ…。何で。」



私、まだ泣くことができるんだ。



泣くのって、こんなに心が熱くなるんだ。



今まで、自分の感情は心の奥底にしまい込んできたはずなのに。




「心和ちゃん!」




聞き覚えのある声に、振り返ると保健医の先生が後ろに立っていた。




「…先生…。」



どうして…ここに来たの?



何で…。



何で今、私の目の前に現れるの?