そんな志穂の話を、いつも一也は聞いてくれる。
「志穂は志穂なりに辛かったんだよな。
好きになった男に、たまたま奥さんが居た。
人の気持ちって、そう簡単に変えられないからな」
一也は、志穂のこんな愚痴を聞くたびに思う。
”俺は何やってんだよ…。
好きな女が、目の前で他の男の話してんのに、
何で冷静に話し聞いて、慰めてんだよ…。
一言、好きだって言えばいいのによ”と…。
だが、思うだけで、決して言葉には出来ない。
一也は怖くてたまらない…。
志穂を失うことが…。
志穂はいいだけ愚痴を言い、泣き出したかと思えば、寝てしまっていた。
まっ、これもいつものパターンなのではあるのだが…。
一也は何度、こんな志穂を見てきただろうか。