このまま西野くんのペースに巻き込まれるのを避けるため話題を変える。さっき重なった言葉の続きを訊ねた。


「あー」


いつもより半音低い声を出す。考える素振りを見せた数秒後、「忘れた」というひと言。思わず「え?」と素っ頓狂な声が漏れる。




「西野くんが忘れてどうするの」

「嘘、ちゃんと覚えてるって」

「全然おもしろくない」


なにその冗談、と思い不満を呟けば相変わらず辛辣だな、と呟く声が聞こえる。




「それで?」

「岩田が中学のときと変わってないとこ思い出した」

「……変わってないとこ?」


なんだろうか。わたしが数年前と変わっていないこと。
どこか変わったような気もするし、大して変わっていないような気もする。



「身長」

「……なにそれ」


期待外れ。特別ほしい回答があったわけではないけれど、その答えはなんだか納得いかない。



「変わった?」

「あんまり変わってないかもだけどちょっとは伸びたよ」

「あー、そう?」

「西野くんはけっこう伸びたよね」

「岩田と比べるとそうかも」


中学生のときはさほど変わらなかった目線が今では見上げなければ視線が交わることはない。



「案外俺ら変わってないのかもな」

「そうかもね」