この光景ももうすっかり見慣れてしまった。
わたしか彼か、どっちが早く着くかはまちまちだけど、今日は彼のほうが早かった。
先週まではそこになかった冬の必需品。首元にはマフラーが巻かれている。緑色を基調としたチェック柄。
「おはよう」
「おー、」
後ろから声をかければ、西野くんは振り向いた。マフラーに顔の半分を埋めた状態での返事は篭って聞こえずらい。
わたしはついこの間、クローゼットからブレザーを取り出したばかり。半年ほどクローゼットの中で眠っていたブレザーは久しぶりに着るとまだ少し馴染まないし重く感じる。それとは対照に、再会したときからブレザーを羽織っていて今では防寒具を身につけている彼はよほど寒がりなんだろう。
朝、駅で会うことも挨拶を交わすことも、わたしにとっては日常になりつつある。最初ほどの動揺はなくなって、慣れって恐ろしいものだと実感した。
だからといって、電車が来るまでの数分の間に会話が弾むわけでもない。辺りはザワザワと騒がしくしているのに、わたしと西野くんの間だけ静かな空間で包まれているような感じ。この沈黙の時間が苦手だ。
「あのさ、」
「あの、」
沈黙を破ろうと口を開くと見事に西野くんの声と被った。
「先にどうぞ」
「いーよ、岩田から。じゃないとすぐ忘れるでしょ」
皮肉を孕んだ言い方に、若干のイラつきを覚える。
西野くんは一言余計なんだ。それでも言い返せないのは図星だからだ。厚意に甘えてさっき話そうとしていたことを改めて言葉にする。
「西野くんは、彼女、いないの?」