それまで静かに聞いていた凌介くんが、顔を覗いてくる。不敵に口角を上げて凝視されるから、咄嗟に顔を反対方向へと背けた。



「そんなんじゃないよ」

「素直じゃないね」


ははってわらう声が聞こえる。

こつ、とローファーで凌介くんのスニーカーを軽く蹴る。そうすれば、凌介くんもまたわたしのローファーにぽん、と当ててきた。


足元に向けていた視線を隣に移せば、目が合う。まさかこっちを見ていたなんて思わず吃驚していれば、凌介くんはやさしく微笑んで。




「好きだよ、そういうとこも」

「……急に、どうしたの」

「言いたくなったから?」


「なんで疑問形なの」と問えば、「わかんない」と少し照れたようにわらった。



「凌介くんってこういうこと言う人だっけ? もう部活行きなよ」

「なんで追い出そうとすんの。まだ時間あるしここいるよ」



パタパタと手で顔に風を送る。効力は小さいけれど、しないよりはきっとマシ。視界の隅に映る木は、ついこの間までは鮮やかな色を纏っていたのに、今はところどころに枝の姿も見えている。少しずつだけど確実に冬に近づいているはずなのに、わたしの周りはまるで夏のよう。