「気になるから言ってよ」

「大したことじゃないよ」

「うん」



じゃあいいやって、そう言われるかと思ったのに聞く姿勢をとられる。続きを求められるような視線を受け、ほんとに大したことじゃないんだけど、と前置きをする。



「変わってないんだなって昔から」

「ん?」

「寒がりなところ」



呼び起こされる記憶。中学生のときの西野くんはとても寒そうにしていた。みんながまだ体操服だけで体育の授業を受けているときもひとりだけジャージを着ていたし、冬にはよくホットココアを飲んでいた。



ふふ、と思い出しながら視線を左上に向けると、わずかに目を見開いた西野くんが目に映る。



「岩田が笑ったの久々見たかも」

「え、うそだ」


咄嗟に否定の言葉を零せば、「いやほんとだって」と苦笑される。



「この前からずっと表情硬いから、気分でも悪いのかと思ったけどそうでもなさそうだし」

「…………」

「だからといって不機嫌な感じにも見えなかったからさ、どーしたんだろーとは思ってたんだけど、」




何も言い返せない。西野くんに会う度、驚いて表情筋が固まっていた自信はある。でも、まさか気分が悪いと思われるほどまでだとは。表情筋が正直すぎる。わざとではなかったとはいえ、少し申し訳ない気持ちになった。





「俺に会わなきゃよかったって思ってる?」



見ていた横顔が、こちらを向く。その視線から逃げるように、目を逸らした。