「あたしはさ、」



食べかけのおにぎりを見つめ、ぽつりと静かに口を開いた那乃。本音を知りすぎても生きづらそうだなあ、と呑気に考えながらポテトサラダを食べようとしていたわたしは、箸を止めて顔を上げる。




「あたしは、世莉が西野と別れてよかったと思うよ」



紡ぎ直された言葉に、いつになく真剣な眼差し。賑わう教室の隅で、少し落ち着いた空気が漂う。






西野くんと別れてから、しばらくは忘れられなかった。いま思えば予兆があったのかもしれないけど、そのときは突然のことでなにがなんだかわからなかった。


一方的に振られて、その後はもう目を合わすことさえなくて。中途半端な終わり方で、ずっと心に蟠りが残っていた。



「まあこれはただのあたしの意見だけどね。あんっな最低最悪男よりもぜったい佐田のほうがいい!」



ついさっきまでの空気を一瞬で変えるように感情を爆発させた那乃はおにぎりを大きく頬張る。両頬がぷくっと膨れ上がっている姿が小動物みたいでかわいい。



「だってそうじゃなきゃ、いま佐田と付き合えてなかったでしょ」



咀嚼した後、穏やかな表情を浮かべる那乃に「そうだね」と返事をした。



あのとき西野くんと別れたから、いま凌介くんと付き合えているわけで。少しでもタイミングが違っていたら、今はまた別の生活を送っていたのかもしれない。