「で、どうだったの!」
「どうって?」
「西野のこと!」
わたしの前の席に座るや否や、開口一番に昨日のことに触れられた。那乃の口から発せられた名前に反応したわたしは、お弁当の蓋を開けようとしていた手がぴた、と止まる。
「ずっと気になっててしょうがなかったんだから」
そう言う那乃は、わたしが4限に受けた古典の教科書を机にしまっている最中に教室に入ってきた。今はお昼休み。つまり、ついさっき登校してきたというわけだ。
理由は単純な寝坊だと思う。1年生の頃から度々寝坊しては寝坊を理由に遅刻するものだから、すっかりそれに慣れてしまって今はわざわざ問いたださない。
「昨日会ってきたんでしょ?」
「……うん」
「うん、ってそれだけ!?」
「それだけだよ」
「ほんとに?」
「…………ほんとに」
前のめりになってむーっと疑いの目を投げかける那乃を前に、ミニトマトを箸で掴んだ。
投げつけた?と冗談交じりに言う那乃に、さすがにそれはしてないよと苦笑いを返す。
「あたしだって心配してたんだからね? 泣きそうな顔で着いてきてなんて言うから」
そう言うと、登校途中に寄ってきたらしいコンビニの袋からおにぎりを取り出し、ビニールを開けて頬張った。
「ごめん……」
口をきゅっと横に結んだ。
「でもよかった。無事返せたなら今後もう会うこともないしね」