「じゃあなんで持ってきたの? ていうかそれ世莉の?」


鋭い質問が次から次へと飛んでくる。


たしかに、こんなにもいい天気なのに折りたたみでもない普通の傘を持っているわたしは、電車の中でも少し浮いているように感じた。



正直に言えばきっと迷惑をかけてしまう。だからといって咄嗟にいい言い訳が思いつくわけでもなく。


横から訝しげな視線を訴え続ける那乃に耐えかねて、薄く唇を開く。


「……貸してもらったの」

「いつ?」

「昨日、」

「誰に?」

「……くん」

「へ? なんて?」

「…………西野くん」



「………………はっ?」



昇降口を目の前にしてフリーズしてしまった。口をぽかんと最後に発した “は" の字に開けたまま固まっている。




「は、え……は? ちょ、ちょっと待って。整理させて」



そう告げると、大袈裟に両手で頭を抱え、一点を見つめながらブツブツと何かを呟いている。なんて言っているのか聞き取れないくらい小さな声。その姿は友達のわたしから見ても気味が悪く不審者そのものだ。







「…………西野って、あの?」


やがてゆっくりと口を開いた那乃は、さっきの言葉が未だに信じられないらしい。なんとも言えない表情で、じい、っとこちらを凝視する。